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鈴木のりたけ「大ピンチ展!プラス」が開幕 どんなピンチも面白がってみるべし!

『大ピンチずかん』作者・鈴木のりたけさん(左)と、PLAY!MUSEUMプロデューサーの草刈大介さん

ピンチを楽しく体感できる展覧会

『大ピンチずかん』は、「牛乳がこぼれた」「トイレの紙がない」など、子どもの日常に潜むピンチの数々をユーモアたっぷりに切り取った絵本シリーズ。2022年2月に1作目が出版されると、共感を呼ぶ内容が多くの親子の心をつかみ、2作目、3作目あわせて累計270万部を突破する人気シリーズとなりました。

「大ピンチ展!」は、2025年7月下旬に横浜高島屋で開幕。8月下旬の大阪高島屋での開催を経て、10月8日より特別展示とカフェをプラスした「大ピンチ展!プラス」としてPLAY! MUSEUMにてスタートしました。年末にはジェイアール名古屋タカシマヤへの巡回が予定されています(12月23日~2026年1月12日)。

「夏休みの百貨店でスタートするという会場の条件から、じっくり鑑賞する原画展ではなく、子どもたちが動き回って楽しめる体験型の展覧会を企画することにしました」と話すのは、『大ピンチずかん』の作者である鈴木のりたけさん。「せっかく展覧会にするなら、絵本で描かれたピンチを立体化するだけではなく、会場に足を運んだ人だけが楽しめる新しい展示にしたい」と考え、ピンチを題材にしたユニークな遊びを「ピンチ・エンターテインメント」として自ら考案しました。

 来場者は、会場で待ち構えるいくつものピンチに入り込んだり、新たなピンチを考えたりしながら、絵本だけにとどまらないピンチの面白さを体感することができます。

ピンチを思いきり笑い飛ばそう!

 会場入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、今にも倒れそうな巨大ショートケーキ。『大ピンチずかん 2』の表紙を思い起こさせるこの展示は、フォトスポットとしても楽しめます。

 横浜・大阪両会場で行列ができたという「ステーキの大ピンチ!」は、ポテトやにんじんを皿から落とさずに巨大ステーキをうまく切れたら大成功。ステーキの断面にはマグネットが埋め込まれていて、大きなナイフを入れると実際に切る感覚を味わうことができます。

ステーキの断面はミディアムレアな色合いになっていて、細かなところまで作り込んでいることがわかる

「あまもりの大ピンチ!」では、2人1組で雨漏りのピンチを体感できます。1人が雨に見立てた大小さまざまなボールをレールに転がし、もう1人がバケツで受け止めるのですが、ボールのサイズによって落ちる位置が違うため、思いのほか受け止めるのが難しいのが特徴。「絵本にはない大ピンチだし、今の住宅事情だと雨漏りってなかなかないと思うんですけど(笑)、雨漏りでバケツを持って右往左往する姿が、僕の記憶の中で大ピンチのアイコンみたいな感じになっているので、それを再現してみました」と鈴木のりたけさん。ボールがなかなかキャッチできずに慌てふためく姿が滑稽で、笑いを誘います。

「この遊びを経験したあとで実際に雨漏りの現場に遭遇したら、あのときのあれじゃん!って笑えてくると思うんですよね。ピンチに陥ったとき、自分はなんて悲惨なんだと落ち込むのではなく、できれば笑い飛ばせるくらいの気持ちになれるといいよね、という思いでこの『ピンチ・エンターテインメント』を考えました」

ボールのサイズを見て、どのあたりで落下するか予測しながらバケツを動かすのがコツ。ボールをバケツでキャッチしたときの音も楽しめる

 ほかにも、ありえないほど散らばったフンを避けて進む「フンの大ピンチ!」、積みあがった巨大な枝豆のさやを下から崩れないようにそっと引き抜き、また上に重ねる「えだまめの大ピンチ!」など、バリエーション豊かなピンチを楽しむことができます。

大ピンチとは? 根本から考え直すきっかけに

 与えられたピンチを体感するだけでなく、来場者が自ら考え、ピンチを生み出すことができるのも、この展覧会の醍醐味のひとつ。鈴木のりたけさんが本展における「ベスト・オブ・コンテンツ」とうたい上げる「大ピンチバー」は、「誰が・どこで・何を・どうした」という4種類のバーを組み合わせ、思い思いのピンチのシチュエーションを作り出す参加型の展示です。組み合わせ次第で、クスっと笑えるピンチや絶対に避けたいピンチなど、多種多様なピンチを生み出すことができます。

「4種類のバーを選びながら、これは大ピンチなのか?と考えることは、大ピンチについて根本から考え直すきっかけになるし、誰かが作って残していったピンチを見て、自分ならどう思うかを考えてみることで、自分のピンチへの耐性をはかることもできます」と鈴木のりたけさん。

「さらには、他の人の作ったピンチの一部を変えてみるのもいいですね。たとえば『よぼよぼのおばあさんが』という主語を『ラッパーが』に変えるだけで、ピンチのシチュエーションはがらっと変わる。前の人が作ったピンチを鑑賞して、次の人がアレンジを加えて……来場者の一期一会でピンチが変化していくのが面白いですよね」

 

一周回って戻ってきたら、自分が作ったピンチの一部が誰かにアレンジされて、さらに面白くなっていた、などということも

 楕円(だえん)の展示室の中ほどで待ち受けるのは、『大ピンチずかん』表紙としてもおなじみの、男の子が牛乳をこぼしたシーンを立体化した「ぎゅうにゅうの大ピンチ!」。白いボールだけのボールプールで、牛乳がこぼれた空間に全身で飛び込んで遊ぶことができます。横浜や大阪では、知らない子ども同士が「ボール入れて!」「もっともっと~!」などと声をかけあう姿も見られたそうです。

 会場のあちこちには、本展の図録『大ピンチを楽しむ』(ブルーシープ)から一部抜粋した鈴木のりたけさんの言葉が赤・青・緑のパネルになって展示されていて、のりたけさんの大ピンチに対する思いをうかがい知ることができます。

原画40点含む特別展示とカフェをプラス!

 本展は全国巡回中ですが、PLAY! MUSEUM限定の特別展示として、鈴木のりたけさんの絵本原画40点のほか、『大ピンチずかん』や「大ピンチ展!」の制作過程が垣間見えるラフスケッチの数々が公開されています。

 原画が展示されている絵本は、デビュー作『ケチャップマン』と「しごとば」シリーズ、『たべもんどう』(いずれもブロンズ新社)の3作品。どれも『大ピンチずかん』とは異なる作風で、鈴木のりたけさんの表現の幅広さを感じることができます。『大ピンチずかん』のスケッチの中には、表紙の男の子の別バージョンも。実際の男の子とどこが違うか、見比べてみるのもおすすめです。

鈴木のりたけさんの絵本「しごとば」 好奇心のかたまりの空間をパノラミックに描く

 会期中、PLAY! MUSEUMのカフェでは「大ピンチ展!プラス」限定メニューを展開中。具が大きくてはみ出そうな「わんぱくハンバーガープレート」や、今にも倒れそうな「大ピンチ!タワーパフェ」など、さまざまな“大ピンチレベル”のメニューが用意されています。

PLAY! MUSEUMだけの展覧会限定カフェメニュー。注文すると、「大ピンチ!メダルコースター」がもらえる

 木製の大ピンチブロックやアンフォーチュンクッキー、キービジュアルをあしらったTシャツやバッグなど、展覧会限定のグッズも充実。『大ピンチずかん』をはじめとする鈴木のりたけさんの絵本のほか、図録『大ピンチを楽しむ』や、犬の大ピンチを集めた公式パロディ本『犬ピンチずかん』(会場限定発売、ブルーシープ)も販売されています。

充実の展覧会グッズ。自分好みのピンチを持ち帰ることができる

 土日は混雑が予想されるため、日時指定制チケットを事前購入する必要がありますが、平日来場者には展示コンテンツにもなっている「へんなふくカード」が特典としてプレゼントされるそうです。

「面白がると世界は広がる」をモットーに絵本を作り続けているという鈴木のりたけさん。面白がるマインドさえあれば、どんなピンチも笑い飛ばすことができるかもしれません。この秋は「大ピンチ展!プラス」に足を運んで、大ピンチを面白がってみてはいかがでしょうか。

「徹子の部屋」に鈴木のりたけさんが出演したときにお披露目した「大ピンチブロック」。6つのブロックで男の子の全身に降りかかるピンチを組み合わせて楽しめる

©鈴木のりたけ/小学館