1. HOME
  2. コラム
  3. 新書速報
  4. 歴史学の最先端から考える「感覚史入門」 上村剛の新書速報!

歴史学の最先端から考える「感覚史入門」 上村剛の新書速報!

  1. 『感覚史入門 なぜプラスチックを「清潔」に感じるのか』 久野(ひさの)愛著 平凡社新書 1210円
  2. 『「酔っぱらい」たちの日本近代 酒とアルコールの社会史』 右田裕規(ひろき)著 角川新書 1034円

    ◇

 新年。昼からお酒を飲み、写真をSNSにあげた人も多いだろう。だが、どうしたわけで、そのように私たちは振る舞うのだろうか。

 (1)は感覚史という歴史学の最先端から考える。喜怒哀楽などの感情とは異なり、視覚や聴覚などの感覚の変遷をおう。例えば、清潔さ、いい匂い、騒音。これらは主観的でもあるが、19世紀後半以降の資本主義の価値観とともに標準化されたという。花の香りや波の音が人工的に心地よく作られ、ガラスやセロハンは視覚優位の感覚を生み、今もVR(仮想現実)技術が新感覚を創出中だ。また感覚は人種とジェンダーの差別意識もうむ。特定の人種を汚い、うるさいと思う感覚も、歴史の構築物なのだ。「映(ば)え」をねらう私たちも、視覚をありがたがりすぎてはいないかと、歴史は教えてくれる。

 (2)は飲酒の社会史を、縦横無尽な史料紹介で軽妙に語る。江戸~明治の日本は昼夜の別なく飲む文化だった。巡査すら仕事中に飲んでいた。だが、労働生産性という合理的な考え方が導入されると、終電で帰る、「飲むのも仕事のうち」といった近代的な現象が生じた。さらにお酒を薬のように扱う考えも、戦時期には登場した。そして現在では飲酒の生産性が認められなくなり、「酒離れ」にいたる。そう考えると、正月に酔いつぶれるまで飲むのは前近代的だが、それこそ日本の原風景なのかもしれない。どこかフーコー哲学のように、理性と非理性の狭間(はざま)から現代を探究する1冊だ。=朝日新聞2026年1月10日掲載