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くるむあくむさん「集団葬儀」インタビュー ホラーの新鋭が描く奇妙な“最期”のカタログ

くるむあくむ『集団葬儀』(講談社)

日常で感じる気持ち悪さをホラーに

――Xで公開しているホラー作品がたびたびバズっているくるむあくむさん。小説、マンガ原作、映画脚本とマルチに活躍されていますが、ホラーの創作を始めたきっかけは?

 本当にただの思いつきです。Xのアカウントを開設して、1ページで読めるミニホラーみたいな作品を投稿していたら思いのほか反響がありまして。その後、Xと連動した動画もYouTubeに投稿し始めて、そしたら作品を見てくれた方が連絡をくれて、出版方面の仕事に繋がっていった。結果的にこうなっていますけど、何か戦略があったわけではないんですよ。

――もともとホラーはお好きだったんでしょうか。

 好きでした。よく禍話(実話怪談を扱ったネットラジオ)を聴いたり、怪談師の動画を見たりしています。ただ普通に怖がりでもあるんですよ。幽霊は怖いですし、心霊スポットなんかも行きたくない。そこは声を大にして言っておきたいです(笑)。

――奇妙なアルバイト募集を題材にした『或るバイトを募集しています』(KADOKAWA)をはじめ、くるむあくむさんのホラーにはリアルな手触りのものが多いですね。

 発想の出発点が、日常のなかで感じた違和感だったりするので、自然とそうなります。「これって変じゃない?」という感覚を、作品にすることで吐き出しているというか。それはネットに投稿している作品でも、小説やマンガ原作でも同じで、「このアイデアはマンガ映えするだろう」みたいなことはあまり意識しません。本当は考えた方がいいんでしょうけど、根底にあるのは自分が日頃感じている違和感、気持ちの悪さですね。

――いわゆるモキュメンタリーホラー(実録を装ったホラー)に分類される作品が多いと思うのですが、そこはどうお考えになっていますか。

 意識してやっているわけではなくて、日常ベースで考えたら自然とそうなるという感じです。日常のバグみたいなものを拾い上げていく作品が多いので、必然的にリアル寄りになる。あとは個人的な考えとして、人は奇妙な出来事に遭遇しても、それを最後まで見届けることはできないですよね。きれいなオチが用意されているわけではなくて、触れられるのは断片に過ぎないと思うんです。そういう見せ方を意識して作っているので、モキュメンタリーっぽくなるというのもあるでしょうね。

不平等な死、平等に弔うには

――新作『集団葬儀』はいくつもの棺が並んだ集団葬儀と呼ばれる儀式で、遺族や関係者の口から奇妙な怪談が語られるという連作形式のホラーです。

 葬式というのは、一人のためにみんなが集まる儀式ですけど、そこに複数の棺が並んでいたらインパクトがあるんじゃないか、という発想です。その絵面がまず浮かんできました。これはずっと感じていたことですが、現代における冠婚葬祭って、古のルールにただ身を委ねているだけ、という気がしませんか。調べれば由来や由緒があるんでしょうけど、みんなよく分からずに従っている。それに対する皮肉じゃないですけど、主人公も他人の葬式にアルバイトで参加して、流されるままに行動するんです。

――主人公の大学生は、ネット上の募集ページで日給3万円という集団葬儀のアルバイトを見つけます。変わったアルバイトという導入は『或るバイトを募集しています』とも共通していますね。

 学生時代、いろんなバイトをするのが好きだったんです。長く続けたバイトもありますが、単発のバイトで知らない環境に飛び込んでいくのも面白かった。きつい現場もありましたけど、基本的には大人の社会科見学みたいでいい経験でした。その経験が反映しているのかなとも思います。

――「会場にいるすべての故人に挨拶をしてきてください」という指示に従って、主人公は並んだ棺をひとつひとつ覗き、不気味な話を聞きます。6話のバリエーションを出すのが大変だったのでは。

 そうですね。棺の中にいる人は基本的に死んでいるので、話の結末をそこに持っていかないといけない。やってみたら意外に縛りがきつかったです。バリエーションを意識したというよりは、内容が被らないように書いていったら、結果的にバリエーションが出たという感じですね。

――6つのエピソードでは、怪異だけでなくさまざまな死も語られていきます。いわば人生の終焉のカタログですね。

 はい。そこは隠れたテーマというか、作中でも喪主が言っているんですけど、死というのはすごく不平等なんですね。家族に見送られる人もいれば、一人で寂しく死ぬ人もいて、きちんと弔ってもらえない人もいる。すごく個人差があります。それを平等に弔おうというのが、この集団葬儀という儀式なんです。

――6話それぞれ不気味な余韻がありますが、くるむあくむさんのお気に入りは。

 どれも好きですが、1話目の「怪異屋敷」は視界の端という、前からやってみたかったテーマが書けたので気に入っています。ピントを合わせられない範囲にいる怪異が、徐々に迫ってきて視界を埋めていくという話で、一番すらすら書くことができました。4話目の「やりかたいろいろ」は善意のつもりで取った行動が、相手にとっては迷惑でしかなかった、という切ないすれ違いが書けたので楽しかったです。こういう話は現実でも結構ある気がします。

――「祖母の風呂」はお風呂に入っていると、なぜか死にたくなる少年の物語です。

 これは自分の体験なんです。僕はおばあちゃん子で、祖母の家によく遊びに行っていたんですが、その家でお風呂に入っているとよく不思議な感じに襲われたんです。思考のスケールが妙に大きくなるというか、「人は死んだらどうなるんだろう」みたいなことを深く考えてしまう。なぜか祖母の家限定で起きるんです。暖色の照明のせいなのか、居間から聞こえてくる賑やかな声のせいなのか、原因はいまだに分からないんですけど、その記憶を利用しました。

――その他、近所でお菓子を配っている老女にまつわる「キャラメル」、町の名物だった男性の思い出を描く「赤茶の耳栓」など、ノスタルジーを感じさせるエピソードも多いですね。

 ノスタルジーを意識したというよりは、恐怖という感情に大人と子供の違いがないと思うんですよ。大人になって知見が広がっても、暗闇でいきなり目の前に人が出てきたら怖いじゃないですか。幾つになっても怖いものは怖い。恐怖を感じるシチュエーションも、基本的には子供の時と変わっていないので、だから大人が読んだらノスタルジーを感じるんじゃないでしょうか。

東京・秋葉原で開かれたリアルイベント『集団葬儀』=講談社提供

作品世界を再現したイベントを開催

――「水の渇き」は池の水に執着する少年の言動にぞっとさせられる作品。この池にどんな因縁があるのか。

 池の水の正体よりも、それに固執する友だちの様子が不気味で気持ち悪いという話なので。答えは出さないし、出す必要もないというか。小学生同士のやり取りも書いていて楽しかったですね。登場人物の関係性とか距離感を書くのも好きなので、どのエピソードもそこに力を入れています。

――画像や動画を使ったホラーもお得意ですが、今回は文章での恐怖表現が中心ですよね。

『或るバイトを募集しています』ではフォントを色々変えたりしていたんですが、今回はギミックを入れずにやりたかったんです。要素を足していくというより、むしろ引き算で怖さを作っていくという方法ですね。こだわりといえば会話ですかね。小説の会話文って現実で話されている言葉よりも堅いことが多いですけど、自分はもっとくだけた口調で、本当に学生が話しているみたいな感じにできればと思っています。「怪異屋敷」の「……いるんだよ、家に多分」「いるって何が?」「なんなのかはわからない」というやり取りのように、最後まで言い切らない。含みを持たせた会話の中に、不気味さが漂えばいいなと。

――昨年12月には、東京・秋葉原で作品世界を再現したリアルイベント『集団葬儀』が開催され、こちらも話題を集めました。

 リアルイベントは前からやりたいと思っていたんですが、個人ではなかなか開催が難しいんですよね。今回は書籍のプロモーションという形で実現ができたので嬉しかったです。結構たくさんの人が足を運んでくれて。『集団葬儀』という作品のことをまったく知らないカップルが立ち寄って、秒で帰ったという話をネットで読んで、めっちゃいいなと思いました。それこそリアルイベントの醍醐味ですよね(笑)。

――「あれは何だったんだ」と一生気になるでしょうね。イベントは今後もやってみたいですか。

 はい。小説は小説で続けていくつもりですが、それと並行してイベントにも挑戦してみたいです。お金を払っても満足できるくらいの体験型のホラーイベントをそのうちやりたいですね。小説ではもっと長くて読み応えのある作品を書いていけたらなと思います。『或るバイト』みたいに短い話がたくさん入っているのも好きなんですが、物語に没入できるような長めの作品も書いてみたいです。

――ぜひ長編のホラーも読んでみたいです。では最後に、くるむあくむさんがホラーを創作する際に大事にしていることとは?

 あらためて聞かれると難しいですが……、まず怖いというより「気持ち悪い」という感覚を大事にしています。僕にとって気持ち悪いは褒め言葉なんで(笑)。それと現実って都合よく運ぶものじゃないですよね。極端な話、キーパーソンが途中で死んでしまって、そこで終わりということだってある。疑問がすべて払拭されることはなくて、事件の一部を垣間見ているだけなんじゃないか、というのはよく考えますね。恐怖って未知からくる感情じゃないですか。意味が分からないから怖い。謎が解けたらそれはもうホラーではないと思うので、何かの断片に触れてしまった感じをこれからも表現していきたいです。

朝宮運河さんの新刊『日本ホラー小説史』(平凡社新書)の紹介記事はこちら

ホラー小説の波瀾万丈の歴史をひもとく――朝宮運河『日本ホラー小説史』

※31日公開のじんぶん堂の記事です