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犯人当て小説の多様性を感じるアンソロジー「意外な犯人」 若林踏が薦める文庫この新刊!

  1. 『意外な犯人 犯人当て小説傑作選』 綾辻行人他著 福井健太編 創元推理文庫 990円
  2. 『木製の王子 新装版』 麻耶雄嵩著 講談社文庫 1045円
  3. 『悪党たちのシチュー』 ロス・トーマス著 松本剛史訳 新潮文庫 1155円

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 (1)は日本ミステリにおける犯人当て小説の歴史を短編で振り返ることができるアンソロジーの第三弾。“新本格推理”ムーブメントを経た一九九〇年代以降に書かれた作品を収めた本書では、綾辻行人「意外な犯人」や法月綸太郎(のりづきりんたろう)「挑戦状盗難事件、または名探偵オルメスの冒険」といった“新本格”作家たちによるユニークで攻めた短編を楽しむことが出来る。掉尾(ちょうび)を飾る「竜殺しの勲章」は『神の光』で注目を集めた北山猛邦による、ハウダニット(犯行方法の解明)の興味も含めた逸品。犯人当ての多様性を感じる一冊だ。

 “新本格推理”ムーブメントからデビューした作家のなかでも、アバンギャルドな着想で一際異彩を放つ作家といえば麻耶雄嵩(まやゆたか)である。歪(いびつ)な物語が揃(そろ)う麻耶作品のなかで入手困難な状態が続いていた(2)がこのたび復刊を果たした。“白樫屋敷”と呼ばれる奇妙な屋敷で起きた猟奇的な殺人を描く本書では、文字通り分刻みのアリバイを検証する過程にまず読者は圧倒されるだろう。だが謎解き小説としての核は、むしろアリバイ検証の先に姿を現す。正統的な謎解き小説に破壊的なアプローチを試みる著者のセンスが発揮された一作だ。

 (3)は近年、日本で再注目されているロス・トーマスが作家としての成熟期に書いた作品。落ちぶれていたジャーナリストが政治屋に雇われ、米国政権を揺るがすようなスキャンダルの情報を得ようとする。個性が際立つ登場人物が入り乱れるなかで先の読めない展開と粋な会話を重ねていく様はトーマス作品の醍醐(だいご)味である。=朝日新聞2026年3月14日掲載