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広瀬浩二郎さん「ユニバーサル・ミュージアムから人類の未来へ」インタビュー 視覚偏重社会の壁に挑む

広瀬浩二郎さん

 昨年はルイ・ブライユが点字を考案して200周年。世界中に広がったそれは視覚障害者の社会参画を大いに助けた。13歳で失明した著者もまた、恩恵に浴したひとりだ。そんな彼が、あるとき気づく。見えるからこそみえないもの、見えないからこそみえるものがある、と。

 「視覚の殿堂」たる博物館に籍を置く、全盲の文化人類学者による障害者社会論である。筆致はエネルギッシュかつさわやかで、社会的弱者に抱かれがちな負の面影などみじんもない。なぜなら、視覚偏重社会が失った、無限の可能性が眠る広大な領域があることを知っているから。自然の空気感や季節感、なにげない街角のざわめき……視覚に頼らないからこそ実感できるものは数知れない、という。

 「そもそも健常者と障害者という2項対立にこだわりすぎていたのでは。近年よく聞くインクルージョン(包括)だって、マジョリティーがマイノリティーを包括するだけじゃなく双方向でいい」

 言葉遊びの達人よろしく、健常者が「見常者」なら、視覚障害者はいわば「触常者」。見常者が忘れた「触文化」をもっと広げ、人間が持つ本来の感覚を呼び戻そう。博物館はその装置になり得るし、それこそが誰でも楽しめる真のユニバーサル・ミュージアムではないか。

 2021年に職場で催した、満を持しての特別展は、不幸にも触れることが忌避されたコロナ禍のまっただ中。「確かに残念だったし不完全燃焼。でも、最も非接触が言われたときの開催で本気度が試されている気がした」

 調査してきた瞽女(ごぜ)や琵琶法師ら、旅の空のもとで語りをなりわいとする人々にならい自らも「琵琶を持たない琵琶法師」と称し、これからも視覚偏重社会の壁と既存の価値観に、軽やかに挑み続ける。

 実は新聞記者になりたかった。就職活動で、ある人事担当は「記者がどんな仕事をするのか、わかっていますか」と言い放った。朗報は来ず、新たな道を求めて飛び込んだ研究者の世界だったが、様々な気づきをもたらしてくれた。本書もそのひとつである。 (文・写真 中村俊介)=朝日新聞2026年1月31日掲載