上野千鶴子さんらトークショーに登壇
通常営業が終了した1月31日午後8時すぎ、紀伊國屋書店新宿本店の1階通路には、事前にチケットを購入できた人々の行列ができていました。その数、ざっと約100人。昨年末に売り出されたチケットは約4時間で完売しています。店内にはイベントののぼり旗が立てられ、普段とは違う雰囲気を演出します。
午後8時半の開場とともに、並んでいた参加者が続々と2階の店内に入りました。目当てのイベントを目がけて各フロアに移動する人もいれば、通常と異なる雰囲気の店内を見回して写真に収める人も。
3階のアカデミックラウンジでは、午後9時15分から上野千鶴子さんと鈴木涼美さんが「限界を超えた私たち」と題して対談(鈴木さんは体調不良のためオンラインで参加)。2人の共著『往復書簡 限界から始まる』(幻冬舎)の刊行から5年を機に、この間に起きた鈴木さんの結婚、出産や上野さんの「15時間婚」などを振り返りました。
上野さんは「お互い結婚なんて考えなかったのに、両方ともしちゃったね」と鈴木さんに語りかけた後、2人で30歳の頃を思い出して「当時の鈴木さんと私に共通していたのは、邪気だと思うんです。歳をとるのはいいことですよ。邪気がぬけて、無邪気になってくる」と笑いました。
同じ時間、2階では、紀伊國屋3賞(紀伊國屋じんぶん大賞2026・キノベス!キッズ 2026・キノベス!2026)が発表されました。キノベス!2026の1位になった村田沙耶香さんの『世界99 上』(集英社)には、村田さん本人からも「紀伊國屋で夜を楽しんでいらっしゃる皆様も、楽しい夜を過ごしてください」と動画でコメントが寄せられました。
明かりの消えた館内を巡る
館内では「ミステリーツアー」も同時進行。スマートフォンとイヤホンを使って、ある事件の推理をしながら館内全体を巡りました。パンフレットとスマートフォンで交互に物語を読み進め、店内の検索端末で本のタイトルを検索したり、店内のある場所に用意されたコーナーで推理に使う証拠を収集したりしながら進みます。
謎解きの終盤には、書店員さんの案内で営業終了後の明かりの消えたフロアに足を踏み入れることに。医学コーナーだったこともあり、書店員さんの持つライトの光に照らされた人体模型の表紙を見て背筋が凍りました。推理が終わったあとも物語には続きがあり、最後は予想外の展開に。ツアーを通じて、書店で未知の本と出会い、本と対話する過程をなぞっているようで、書店員さんの思いを垣間見た気がして心打たれました。
占い師・天満灯香さんの「ブック占い」コーナーでは、参加者のうち優先チケットを配布された22人が、タロットか手相で“人生を変える一冊があるエリア”を占ってもらえることに。ご厚意で特別に見てもらった私は思い切って恋愛について聞いたところ「今あなたのことを気になっている人は3人いますよ」と衝撃の事実が。「そういったことに気づけるようにするためにも、3階にある『心理エッセイ』や1階の『自己啓発』関連の本がおすすめです」と教えてくれました。
居眠りOKの夜通しイベント
土曜の夜は更けて、終電に間に合うよう帰路に就く参加者もぽつりぽつり。しかし書店で夜を明かす人のために、イベントは夜通し続きます。日付が変わって2月1日午前0時、1階に佐伯ポインティさんが登場。「無責任選書」と題して「読んだことがない本もおすすめしちゃうし、眠い方は寝ちゃっても大丈夫です」と笑いを取りながら、会場の挙手に応えて本を紹介していきます。
この時間に残っている人は、書店でオールすると腹を決めた人たちも多数。「天満灯香さんの占いで英語を勉強したほうがいいと言われた」という人には、代々木ゼミナールのトップ講師・富田一彦さんの本を薦め、自身の受験時のエピソードも交えて観客を沸かせていました。
午前0時15分からの内田剛さんの「オールナイトシンジュク」は、リアルやオンラインでゲストを呼んで本をプレゼンしてもらいながら、内田さんらが感想を話すスタイルで進行。まるでラジオの深夜放送を聴くような雰囲気で、まったりと時間が流れていきます。
2階の短歌コーナーでは、この詩歌の棚を手がける担当書店員・梅崎実奈さんと、俳句や短歌の本で知られるナナロク社代表の村井光男さんが、棚を囲んで本を手に取り、魅力を語っていく催しも。
「リアル選書LIVE!」では、けんごさんと渡辺さんらがテーブルに山積みされた本を囲んで、参加者の目の前で本を紹介。けんごさんや渡辺さんは書棚を回りながら、参加者と立ち話も交わしていました。これもオールナイトならではの緩さとテンションの高さがなせる技でしょうか。
深夜の書店で寝る人も
一部フロアには休憩エリアが設けられ、飲食が許可されたエリアでは、持ち込んだ軽食をとりながら購入した本を読む人がいたり、7階ではヨガマットが貸し出され、本棚と本棚の間に敷いて仮眠をとる人がいたり。深夜の書店で本に囲まれて眠るという、本好きにとってまさに夢のような空間で、どんな夢を見たのでしょう。
営業時間外のオールナイトイベントですが、もちろん本も購入できました。午後9時半からは4階レジが、深夜2時過ぎに2階と3階のレジが開き、フェスで出会った本を買う参加者が列を作る場面も。普段は買えない時間に、各フロアのブックトークに触発されると、つい本に手が伸びるもの。ただ、混んでいたこともあり、気になった2冊は翌日行って購入しました。
この日の来場者数は関係者含め約750人。午前6時の終了時刻を前に「蛍の光」とともに店を出た参加者は、デジタルサイネージの前で記念写真を撮るなど、思い思いに名残を惜しみながら未明の新宿の街に消えていきました。店は翌朝10時からの通常営業に向け、しばしの休息です。
「本屋、今日も開いていてくれてありがとう」「いつまでも書店が身近である世の中でありますように」。4階に設置されたボードには、登壇者や参加者が本や書店への熱いメッセージを続々と書き込んでいきました。
一夜限りの非日常でしたが、本を通じて新たな人や物語との出会いがあり、そんな空間を作ってくれた書店のスタッフさんや出版関係の人たちの熱意に胸を打たれました。街から書店が減りつつあるなか、私も本を読み、尊さを語り続けることで、誰かにとっての出会いのきっかけになれればと強く願った夜でした。