ISBN: 9784910635224
発売⽇: 2025/12/24
サイズ: 21.2×3.5cm/464p
ISBN: 9784093567565
発売⽇: 2025/10/29
サイズ: 13×18.8cm/272p
「生を見つめる翻訳」 [編]久野量一、千葉敏之、真島一郎/「彼女の最初のパレスチナ人」 [著]サイード・ディービー
東京外国語大学という「世界の多様性を生かすことを教育方針にしている大学」が、これまでどれだけ外国語の翻訳を生み出してきたか。久野量一ほか編『生を見つめる翻訳』の執筆陣とカバーする言語の歴史と数には感服せざるをえない。最先端の哲学、思想や古典、古今東西の抵抗文学や革命の証言まで、30以上の論考などと4編のインタビューが語る。
同大学は欧米言語はもちろんアジア、アフリカ、世界の少数民族の言語まで幅広く教える。それは明治以降の帝国日本の対外拡張政策の歴史と切り離せない。従軍通訳官として植民地に派遣された者もいれば、大杉栄のようなアナキストもいた。
戦後はそれを覆すように、チベット、インドネシア、韓国・全羅道、南アフリカの人々の声、第三世界の辺境に置かれた人々の抵抗や闘いの最前線を本書は伝える。「相手に感じる差異や違和」を受け止め、「それでも共有できる言語」を交わすことが、翻訳の髄だという。
闘いの最前線の声に人々は耳を傾ける。だが最前線にいない人たちは?
サイード・ティービー著『彼女の最初のパレスチナ人』は、カナダに暮らすパレスチナ人たちが中心の短編集だ。ガールフレンドや就職や人間関係など、普通に悩み温かい家庭を夢みる若者たち。
日常のなかに、ときどきパレスチナでの闘いの記憶や歴史が顔を出す。現場の惨状は大げさには登場しないが、パレスチナ人の物語だ。だが、表題作の「彼女」の眼差(まなざ)しは、闘いの前線のパレスチナ人に向かう。難民支援を訴える男は、現場にはもう受け入れてもらえないことを知っている。
誰の声を聴くのか、誰の言葉を伝えるのか。翻訳者ばかりでなく、その地域を研究する者は皆、そのジレンマに苦しむ。
『生を見つめる翻訳』で荒(あら)このみの言葉が響く。「黒人文学」ではなく「『アメリカ文学』として、すべてが包括される時代が到来するのはいつのことだろうか」。
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くの・りょういち 東京外国語大教授▽ちば・としゆき 同▽まじま・いちろう 同▽Saeed Teebi カナダ在住の作家。