1. HOME
  2. 子どもの本クラシックス
  3. 土方久功「ぶたぶたくんのおかいもの」 道草に値するこの世界の楽しさ

土方久功「ぶたぶたくんのおかいもの」 道草に値するこの世界の楽しさ

 好きな絵本は数あるけれど、「最も愛する一冊は?」と問われたら、私は迷わずこの名作を挙げる。土方久功(ひじかた・ひさかつ)の『ぶたぶたくんのおかいもの』。幼い頃、夢中になって何度も読み返した。いくら捲(めく)っても飽きなかった。その理由が今ならわかる。そこには窮屈な常識を打破する底なしの自由があるからだ。

 まずは擬人化されきっていないぶたぶたくんの造形がすばらしい。まんま豚だ。お母さんに頼まれて買い物に出かけるぶたぶたくんは、その途上、からすのかあこちゃんとこぐまくんと合流するのだが、その両者もまた「しょうがなく二足歩行をしてやっている」くらいのリアルな動物臭を放っている。

 人間側のキャラも濃い。「かおつきぱん」なるものを売っている国籍不明のパン屋のおじさん。オレンジ色のツーピースにビーサン、という妙なファッションの八百屋のお姉さん。「ぶ、た、ぶ、た、く、ん、」と異様にゆっくりしゃべるお菓子屋のおばあさん。かつて子どもだった私は得体の知れないその一人一人に度肝を抜かれ、未知への畏(おそ)れと好奇心に震えた。

 謎は尽きない。なぜぶたぶたくんは服を着ていないのにお母さんだけが貴婦人風に着飾っているのか。なぜ意味もなく空にヘリコプターや飛行機が飛んでいるのか。なぜそのヘリコプターと鳥と池の魚がみな同じ大きさなのか。

 恐らく聞くだけ野暮(やぼ)だろう。とにかくこの世界が楽しくて、道草に値するものであればいいではないか――そんな作者の魂の叫びが聞こえてくるような、型破りな遊び心に満ちたぶたぶたくんワールド。その最後の見開きを飾るのは、子どもたちの大好きなアレである。

 そう、地図だ。ぶたぶたくんの道筋を示すそのワイルドな地図には、中央に大きな公園がある。物語には絡んでこない公園。こんなに立派な遊び場があるのにぶたぶたくんは寄らなかったのか……と思わないでもないけれど、きっと無数のちびっこ読者がこの公園で心を遊ばせているにちがいない。(作家)

    ◇

 福音館書店・1320円。著者(1900~77)は、彫刻家・詩人・民族誌家。1929年から10年以上パラオなどで暮らし、現地の人々や風景を主題とした彫刻、絵画を制作。民族資料の収集も続けた。=朝日新聞2026年3月7日掲載