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郷愁浮かぶ私的ノンフィクション「サーカスの子」 岩井圭也が薦める文庫この新刊!

  1. 『サーカスの子』 稲泉連著 講談社文庫 1012円
  2. 『ペーパー・リリイ』 佐原ひかり著 集英社文庫 748円
  3. 『神前酔狂宴』 古谷田奈月著 河出文庫 1045円

    ◇

 家族の姿は一つではない。血縁がなくとも、短期間の交流であっても、「家族」と形容したくなる関係性は確かにある。

 (1)は、幼少期のひとときをキグレサーカスで暮らした著者の私的ノンフィクション。かつて共同生活を送った人々を訪ね、インタビューを重ねていく。転居を繰り返すサーカス団員にとっては大天幕こそが故郷であり、年長者は「兄さん」「姐(ねえ)さん」と呼ばれる。兄さんの一人が「ここは一つの家族なんだ」と断言した瞬間、哀(かな)しみとよく似たサーカスの郷愁が浮かび上がる。

 結婚詐欺師の叔父に育てられた高校生・杏(あん)と、叔父に騙(だま)された三十八歳のキヨエの二人旅が描かれるのが(2)。現金五百万円を持ち出した彼女たちは、幻の百合(ゆり)が咲く谷間を目指して疾走する。まったく嚙(か)み合わない二人の旅路は、トラブルや幸運に見舞われるうちに奇妙なハーモニーを奏でていく。カッコつきの「家族」から逃れ、必死で汗をかく彼女たちの姿は爽やかで眩(まぶ)しい。

 結婚は他人が家族になる制度であり、多くの夫婦が結婚に際して披露宴を行う。(3)はその舞台である披露宴会場の人々を描いた小説。高校卒業後に披露宴会場で働きはじめた浜野は「なんでみんな、結婚を披露するの?」というもっともな問いを抱く。他人に見せるあてのない脚本を書きながら、浜野は無数の新郎新婦を見送る。そしてある時、一人だけで婚礼をしたい、という新婦が現れる。婚礼は、家族になるためだけの儀式なのか? そんな疑問は、読了した瞬間の幸福感とともに消し飛んだ。=朝日新聞2026年4月11日掲載