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斉藤国治「星の古記録」 時空超えて追いかける真実

 この本の初版は1982年で、主に歴史書に書かれた天文現象に興味を持った好事家が手にした、ごく地味な本であった。ところが、最近SNSへの投稿がきっかけで人気が出てベストセラーになったという。何度もお世話になった者として、ご同慶の至りである。

 本書の著者の斉藤国治氏は、現役時代は太陽観測に従事した天文学者で、退職後に趣味のパソコンを駆使して、古今東西の文献に記録された天文現象が事実かどうかを検証する「古天文学」を提唱し、数多くの著作を残した人物である。

 本書はその一冊で、日食や月食や星食(月が星を隠す現象)についての解説に加え、古代の文献に残された記録の真偽を天体の軌道計算で確かめており、古天文学の威力を示している。

 それだけでなく、藤原定家が『明月記』に記載した過去の超新星爆発の出現例を洗い出し、さらに各国の文献に残された記録の比較を行って、現代の超新星研究に大きな寄与をした。また、ハレー彗星(すいせい)の目撃例が日本では天武天皇の時代(684年)にあるが、中国の武王の時代(紀元前1057年)やギリシャのトロイ戦争時(紀元前1163年)など、ずっと以前から数多くの記録が残されていることを明らかにしている。

 本書が初版から43年を経てよみがえり版を重ねているのは、時空を超えて真実を追いかける学問の面白さが支持を得たのではないかと思う。歴史書にさりげなく付け加えられた天文現象を、実際に大昔の人々が目にしたと確かめることで、歴史の謎解きをしているような気にさせてくれるからだ。その意外性を随所に発見することができる。

 星の古記録を通じて、私たちが宇宙のかけがえのない存在であると感じさせてくれる。自分の仕事が再評価されて、泉下の斉藤さんも喜んでいることだろう。=朝日新聞2026年3月28日掲載

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 岩波新書・1012円。82年10月刊。7刷6万1千部。「12年の4刷後は品切れでしたが、昨年11月、Xへの読者の投稿が反響を呼び、3回増刷しました。40年以上前の本が再発見され、新しい読者も獲得しているようです」と担当者。