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「ひまわりの迷宮」書評 日常の工夫から見つける夢と美

評者: 秋山訓子 / 朝⽇新聞掲載:2026年04月11日
ひまわりの迷宮 中原淳一評伝 著者:砂古口 早苗 出版社:実業之日本社 ジャンル:文芸作品

ISBN: 9784408539065
発売⽇: 2026/02/02
サイズ: 13×18.8cm/344p

「ひまわりの迷宮」 [著]砂古口早苗

 口絵の赤いギンガムチェックのワンピース。小さな白襟がアクセントでバイアスの切り替えが入り、ウエストはベルトできゅっ。春にぴったりで、スキップしてお出かけしたくなる。1951年のものとは思えない。
 希代のイラストレーター、デザイナー、編集者だった中原淳一。19歳で作った人形が注目され銀座で個展を開き、雑誌「少女の友」の挿絵画家に。あれよあれよという間に人気者へ。戦後は「ソレイユ」「ひまわり」を創刊し時代の寵児(ちょうじ)になる。
 その多才ぶりと器用さは魔法のようだ。シャンソン歌手の石井好子にパリで会うと、舞台衣装がなかった彼女にモンマルトルで布を買って、ミシンを借りて2枚の着物に仕立ててしまう。
 彼のおしゃれは決して手の届かぬ高嶺(たかね)の花ではない。「美を求める原点は生活の中にあり、貧しくても工夫して自分らしさを見つけること」。端切れを使ったパッチワークで、ミシンを覚えたての12歳の長女がスカートを縫った「くず布で子供にスカートを作らせる」なんて記事もある。
 日常のくらしのちょっとした工夫に夢を見いだし、楽しむ。美しくうっとりするスタイル画だけでなく、そんな地に足のついたところも人気を呼んだ理由に違いない。
 四つも五つも仕事をかけもちし、時には「ヤケ酒」をあおるように仕事に打ち込んだ彼は、絶頂期の40代半ばで心臓病と脳溢血(いっけつ)に倒れ、休養を余儀なくされる。雑誌も休刊。10年後に再起して雑誌「女の部屋」を創刊、売り切れ続出となるもまたも病に倒れた。以降は療養の日々となる。千葉の館山で療養した彼は、近所の女性たちに人形作りや手芸の手ほどきをした。くらしの中でのおしゃれを実践したのだ。
 妻で元宝塚スターの葦原(あしはら)邦子と療養生活の面倒を見続けたシャンソン歌手の高(こう)英男、著者が「ラブ・トライアングル」と呼ぶその不思議な関係にまで踏み込んで、読み応えがある。
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さこぐち・さなえ 1949年生まれ。ノンフィクション作家。『外骨みたいに生きてみたい』『ブギの女王・笠置シヅ子』など。