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「ガチ中華移民」 国家の境界またぐダイナミズム 朝日新聞書評から

評者: 高谷幸 / 朝⽇新聞掲載:2026年05月23日
ガチ中華移民 日本で増殖する「本場中華料理」の謎 著者:中村正人 出版社:太田出版 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784778340995
発売⽇: 2026/03/27
サイズ: 18.8×1.8cm/316p

「ガチ中華移民」 [著]中村正人

 中華料理と聞くと、何を思い浮かべるだろうか。炒飯(チャーハン)や酢豚? それとも麻辣湯(マーラータン)だろうか? 前二者のように古くから日本で親しまれてきた「町中華」に対し、近年、大都市圏で見かけるようになった、中国の「本場の味」を提供する中華はいつしか「ガチ中華」と呼ばれるようになった。麻辣湯はその典型だ。
 このガチ中華は、二〇一〇年代以降、東京や大阪など大都市圏で広がり、コロナ禍以降、さらに拡大するようになった。提供される料理は地域的・民族的多様性に富み、フードコートや現地外食チェーンの進出など形態も多様化している。
 この背景には、日本に暮らす中国人人口の増加がある。ただしこれは、日本だけの特徴ではない。事実、インドや韓国など他地域に越境し、変異を遂げた中華料理も日本に伝播(でんぱ)し、ガチ中華の一部を構成する。それは、中国の人びとの越境的な移動やつながりの中で成り立っている。ガチ中華の拡大はまた、一昔前の「出稼ぎ」とは異なり、社会経済的に豊かな中国人移民が増加し、かれらの嗜好(しこう)に合わせた食文化が展開されていることの証左でもある。ガチ中華とは、「グローバルに広がる中華世界」を映し出す「21世紀の現代料理の諸相」なのだ。
 ガチ中華の広がりを観察するグループとして、二〇二一年に立ち上げられた「東京ディープチャイナ研究会」の代表による本書は、ガチ中華の案内のみならず、そこに映し出された在日中国人と社会の変化を描いた良書だ。中国の話になると、国家間関係を前提とする議論が喧(かまびす)しい。しかし足元を見れば、国家の境界を跨(また)ぐダイナミズム溢(あふ)れる社会が広がっていることを本書やこのグループの活動は如実に示す。
 一方、日本政府は昨年、レストラン経営を含む外国人経営者に付与する在留資格「経営・管理」の許可要件を厳格化した。国家は、このダイナミズムを恐れ、統制しようとしているかのようである。
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なかむら・まさと 1963年生まれ。「ガチ中華」をサイトなどで紹介する「東京ディープチャイナ研究会」代表。共著に『攻略!東京ディープチャイナ』、著書に『間違いだらけの日本のインバウンド』など。