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凪良ゆうさん「多類婚姻譚」 ままならない結婚、する?

凪良ゆうさん=東京都文京区、横関一浩撮影

 〈どれだけ社会人としてがんばっても、結婚という一点をクリアできない限り永遠に合格点をもらえないのは理不尽だと思う〉。食品会社に勤める38歳の華は、新しい部署で課長を任されているが、実家の母親は、結婚しない華をずっと心配している。

 実は、華には恋人がいる。家族に、言っていないこともある。ありのままの自分たちを見せるため、華は意を決して実家に向かう。

 「今の日本には、ただ人と人が一緒にいて一番合理的な形が、結婚という制度しかないのが問題。もっと別の選択ができるようになればいいのになと思いますね」。婚姻制度そのものを見つめるが、凪良さんはそこで物語を閉じなかった。華が無意識にもっていた傲慢(ごうまん)さにも目を向ける。

 ほかにも、地方から上京し、将来に不安を抱える中、結婚を考えている都会育ちの彼とすれ違っていく「Beautiful Dreamer」など様々な「婚姻譚」が並ぶ。中でも凪良さんが自分の価値観も揺るがされたと話すのが、4編目の「Position Talk」だ。

 律は、同じ会社の朱里と付き合っている。同じ宣伝部にいたが、2人の関係を知られると、朱里が異動になった。朱里は、妊娠や出産でキャリアが中断することへの不安を抱え、もう何も自分から取り上げられたくないと、律に訴える。

 律は、自分の発言に常に気を配っている。朱里の怒りも受け止めようとしてきた。だが、律は時に上の世代の「負の遺産」までを背負わされ、断罪される。そして、結婚を前に思う。〈現代の男にとって結婚するメリットとはなんだろう〉

 男性の言い分もすくい上げようと取り組んだ1編。執筆にあたっては、20代の男性編集者の意見も聞いた。すると、「自分の価値観が古いんだと思い知らされる場面が多々あった。常に色んな世代の人の話を聞かないと、知らないうちに自分が古びていくんだと反省しました」。

 各物語から浮かび上がる婚姻をめぐる悩ましさ。大切な人と一緒に生きたい、それだけのことなのに――。出口の見えないトンネルを照らすともしびのような1編が最後に待っている。

 祥子は、シェフ人生で魂を分け合った既婚者の彼と不倫している。愚かさも全力で愉(たの)しむ祥子の、純粋な恋の話。「祥子ちゃんはお花畑の中にいるけど、その中にも彼女だけの聖域がある」。仕事でその聖域に踏み込まれた祥子は、彼とぶつかり、お花畑を抜け出す。だが、物語の最後で祥子が伝えるのは、私たちはそれぞれの庭で愉しく生きるだけだ、ということ。

 タイトルは、「C’est la vie」だ。つまり、「人生はままならない」。

 〈生きるのは楽しいことばかりではなく、正しいことばかりでもないけれど、まあしょうがない、その不自由さごと人生を受け入れましょう――という達観したニュアンスを帯びたフランスの言葉だ〉

 頭にあったのは、尊敬する山本文緒さんの「恋愛中毒」だったという。20代の時に読んでひかれたが、物語の顚末(てんまつ)だけが納得できなかった。「あの時、納得しかねたものを今この年になって、同じ作家として書くことができた。如実に自分の成長を感じてうれしかった」

 ままならない人生を、生きていく。今の凪良さんだからこそ、書けた物語になった。(堀越理菜)=朝日新聞2026年6月10日掲載