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小日向まるこ「あかり」 持ち寄った寂しさが温もりに変わる(第14回)

『あかり』©小日向まるこ/ヒーローズ

 先日、立て続けに友人の祝賀会へお邪魔してきた。ひとつは東京で、折しも台風が接近している週末。どしゃ降りの雨の中タクシーで向かい、雨も嵐も何のその、楽しいひと時を過ごした。夜遅くに店を出ると、雨にけぶる東京タワーが美しかった。そしてもうひとつは京都。大阪からだと遠くないのに、「いつ行っても混んでるんだよなあ」という億劫さが先立ち、なかなか足が向かない。確か、前回訪れたのは2023年、著作の営業活動で書店さんに挨拶回りをした時だった。その前は2022年のゴールデンカムイ展(in京都文化博物館)か。
 平日の京都は恐れていたほどには混雑していなかった、というか心斎橋あたりより全然歩きやすくてほっとした。まあ、ホテルにチェックインしたらすぐ仕事に取り掛かり、鴨川べりをぶらつく余裕さえなかったのだけれど……。
 気の置けない仲間たちと祇園の夜を満喫し、日付が変わった頃にスナックを出ると、夜空の高いところに朧な満月がぷあんと浮かんでいた。東京タワーといい、最高の夜が明かりの記憶で締めくくられるのは素敵なことだった。一緒に過ごした人たちを、交わした言葉を思い出すたび、わたしの胸にはあの明かりが灯る。やさしくて、でももう過去だから、ちょっと寂しい。

『あかり』©小日向まるこ/ヒーローズ

 今回紹介する『あかり』(小日向まるこ/ヒーローズ)も、そんな手触りと余韻のある作品だった。フランスの漫画賞を受賞しただけあって、全てのコマが絵画のように美しく、完成度が高い。そして、本文はモノクロなのに、色や光が見える。
 主人公は、年老いたステンドグラス作家。妻を亡くし、創作意欲も失って、ステンドグラス教室も畳もうと考えている。心の扉は重たく閉ざされ、新しい風が入ってこない。言葉少なに淡々と描かれる喪失の描写が胸を締めつける。大切な人を失うというのは、世界からその人が差っ引かれることではなく、その人の「いない世界」をイチから生き直すことだ。何を見ても、何をしても、「あなたがいない」という現実が繰り返し心に刻まれ、ずたずたになりながら。
 そんな彼の元に、ひとりの女性が現れる。疎遠になっていたひとり息子の娘――孫の「亜香里」だった。何やら訳ありの亜香里を家に招き入れ、ぎこちなく話すうち、老人の胸には、すっかり消えたと思っていた創作の明かりが灯る。けれど、亜香里にはある秘密があって……。

 なにひとつ大げさではないのに、登場人物それぞれの痛みや臆病さ、言葉を尽くしても歩み寄れない哀しみさえほのかに明るんで見え、持ち寄った寂しさが温もりに変わる瞬間の、静かな成就に涙が出た。光に洗われるような物語だった。
 人が家だとすれば、各々の窓の内には明かりがあって、でも中に足を踏み入れるのは容易ではない。招くのも入るのも勇気が要る。人を慕わしく思う気持ちは、外から眺める明かりのようなものかもしれない。ああ、明るいな。きれいだな。遠いな。ぽつんと憧れているわたしの窓の中にもきっと明かりはついていて、誰かが眺めてくれている。誰かの瞳に、きらきらと反射している。
 自分の明かりは自分で見えないから、わたしたちは他者を必要とするのかもしれない。

『あかり』©小日向まるこ/ヒーローズ