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歌人・青松輝さんの大切な本 斬新な表現 よむたび、より自由に

青松輝さん=池永牧子撮影

 若手歌人として注目を集める青松輝さんは、「ベテランち」名義でYouTuberとしても活躍中だ。大学入学後、しばらくは燃え尽きてやる気がなくなったという青松さんが、愛読してきた2作品の魅力を語る。作品に触発され、いくつもの短歌が生まれていた。

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 短歌と出会ったのは、1年の浪人生活を経て東京大学理科三類に進学した年の秋ごろ。神保町の書店で穂村弘の第2歌集「ドライドライアイス」を見つけ、「めっちゃ面白い」と引きこまれた。その後、友人が参加していた短歌サークル「東京大学Q短歌会」に入り、本格的に歌を作り始める。

 「大学に入ってからしばらくの間、結構しんどかったですね。何していいか分からず、ずっとネットを見てるみたいな」。小学生の頃から勉強し続けてきた分、燃え尽きてやる気がなくなった、と振り返る。「半分ぐらい終わってる状態」で短歌を始め、熱中して読んだのが永井祐の第1歌集「日本の中でたのしく暮らす」だった。

 「身の回りに起きていることを、派手な道具を使わずに描写している歌集。表層だけまねしやすい面もあるけれど、よく読むと、時代に対して斬新なことをやっている」と評する。たとえば、こんな歌だ。〈大みそかの渋谷のデニーズの席でずっとさわっている1万円〉。歌集が刊行された2012年当時、「物質としての1万円がゴロッと出てくる短歌は新鮮だったのでは」と推察する。

 この歌に触発され、1万円の物質感をさらに強めた歌が生まれた。〈花と花 くしゃくしゃの1万円が入っているラムネ菓子のプラスティックボトルに

 〈山手線とめる春雷 30才になれなかった者たちへスマイル〉という永井の歌の影響を受け、〈こわれてしまうものたちにピース 恋人の友だちが声をあげて笑う〉という一首も作った。いずれも、自分の好きな短歌が扱っていた課題を継承し、新たなアプローチを考えて挑んだ作品だ。

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 これらの歌を収めた第1歌集「4」には、人気漫画「HUNTER×HUNTER」のキャラクターを詠み込んだ作品もある。〈きみの不在は冬を透き通らせているキルア=ゾルディックの銀の髪〉。主人公ゴンとともにハンターをめざす少年キルアを詠んだ。〈アイザックがいなくなってからの僕らは薔薇色の退屈をもてあます〉は、ハンター協会会長のアイザック=ネテロのことだ。

 「HUNTER×HUNTER」を初めて手に取ったのは、クラスで回し読みをした中学時代。「情報量が多くて、ゲームっぽくて、子ども心に漫画表現の最先端だと感じていた。しかも、ジャンプで看板張っているかっこよさ」。以来、ずっと読み続けてきた。

 7月上旬に出たばかりの39巻を読了後、SNSで「HUNTER×HUNTERの最新刊読んだけど、東大理三でもぜんぜん理解できてないです。難しすぎます」とつぶやくと、反響を呼んだ。根底にあるのは、作者・冨樫義博へのリスペクトだ。「漫画家としてすべてを手に入れた状態なのに、わざわざ描くのも作劇するのも難しい設定を用意して、それを成立させようとしているフロンティア精神に、ありがとうという気持ち」

 現在、医学部の5年生。インタビュー当日も、病院での実習を終えて駆けつけた。YouTube活動が忙しくなり、5回留年して後がない状況だ。それでも、短歌を書き、YouTubeを始め、人生が好転したと感じている。

 自身もなかなかできなかったが、若い世代には「自分の人生なんだから、面白いと思うことをやったら」と勧める。「自由を手に入れたいと思った時、勉強でも何でも、やったらやっただけ自由の量は増えていく。そういう意味で勉強もいいぞ、とYouTubeでも伝えているつもり」。受験勉強を頑張ったのも、東京に行って遊びたい、という願いをかなえるためだった。
 「HUNTER×HUNTER」からも同様のメッセージが伝わるという。ゴンが能力を磨いていく過程には困難が伴うが、その結果、できることが増えていく。

 短歌もまた、「書くと、ここに自由があったんだ、と短歌の形で浮かび上がってくる」と語る。歌を作れば作るほど、より自由になっていく。

(佐々波幸子)

日本の中でたのしく暮らす 永井祐・著

 歌人・永井祐(1981年生まれ)の第1歌集。2012年にBookParkから刊行、20年に短歌研究社から再刊。「口語によるリアリズム短歌を更新した」と評価されている。巻頭歌は〈なついた猫にやるものがない 垂直の日射しがまぶたに当たって熱い〉。

HUNTER×HUNTER 冨樫義博・著

 父と同じ「ハンター」をめざして旅に出た少年ゴンが、個性豊かなキャラクターたちと織りなす冒険物語。1998年に「週刊少年ジャンプ」で連載が始まり、テレビアニメ化もされた。最新刊39巻までの累計発行部数(電子版含む)は1億部を突破。