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かんちくたかこさん、川嶋隆義さん「ネコは 天気を あてられる?」インタビュー 絵本を通して科学を身近に

『ネコは 天気を あてられる?』(講談社)より

小学生の自由研究を絵本に

――『ネコは 天気を あてられる?』は、当時小学6年生だった坂﨑希実さんの自由研究「うちの猫は天気予報士!?」(第14回「科学の芽」賞受賞)が原案だそうですね。

川嶋隆義さん(以下、川嶋) 飼い猫のふくくんが顔を洗っている様子を見て、おばあちゃんが「明日は雨が降るかもしれないねぇ」と言ったことをきっかけに、うちの猫は気象予報士になれるのでは?という仮説を立て、猫が顔を洗う行動と天気との関係を探るという内容の自由研究です。ふくくんを日々観察して、顔を洗ったときのデータを記録し、翌日、翌々日の天気や気温、湿度、気圧との関係を調べてまとめてありました。

かんちくたかこさん(以下、かんちく) 坂﨑さんは2月に研究をスタートして、夏休みにはもっと本格的に観察しようと意気込んでいたようですが、夏休み前にふくくんが骨折したことで、観察が続けられなくなってしまったんですね。それでも、7月までの5カ月ほどの期間、地道に観察した内容がしっかりとまとめあげられていて感心しました。研究データの端々にふくくんへの愛情や、気象予報士になれたらいいなという願いが表れていたので、そのあたりを丁寧に読み取って絵本にできたらと思いました。

―― 原案者の坂﨑さんに改めて取材はしましたか。

かんちく 私が直接やりとりすることはなかったのですが、講談社の編集者さん経由で、自由研究にまとめる前の観察メモを3カ月分ほど送ってもらったりはしました。

川嶋 「科学の芽」賞応募には、A4用紙10枚以内という制限があるので、観察で得たデータがすべて盛り込まれているわけではなくて、結果の表だけが記されていたんですね。それで、結果にたどり着くまでの経緯を知るために観察メモを送ってもらったんです。

かんちく 観察メモはデータだけを書き記した純粋な記録だったのですが、絵本では観察ノートという形で見せることで、自由研究らしさが出せたかなと感じています。

観察ノートの見開き。猫のシールは高橋和枝さんのアイデアだ。『ネコは 天気を あてられる?』(講談社)より

ブラッシュアップを重ねた観察ノートのラフ

日常の中にも、自由研究の種は潜んでいる

―― 絵本化にあたって心がけたことは?

かんちく 「科学の芽」賞受賞作を原案とした「科学の芽えほん」シリーズは全5冊あるのですが、中でも『ネコは 天気を あてられる?』は、自由研究に入るまでの助走をあえて長くとりました。おばあちゃんとの会話から、なぜだろう、不思議だなという気持ちが自然と芽生える様子や、ふくくんをなでたり、眺めたりといった、日々の猫との触れ合いを丁寧に表現したいと思ったからです。

川嶋 日常の中でふと湧き上がった疑問が、自由研究につながっていくところを描くことで、科学って身近だなと感じてもらえたらなと。それと、研究対象が自分の家族である猫なので、対象へのまなざしは単なる興味だけではないんですよね。ドライになりきれない、研究対象への愛情みたいなところも盛り込んでいきたいなと考えていました。

坂﨑さんから追加で送ってもらったふくくんの写真をもとに、高橋和枝さんがさまざまな仕草の猫の姿を描いた。『ネコは 天気を あてられる?』(講談社)より

かんちく 動物の研究って思い通りにならないし、ひたすら観察し続けなければいけないので、大変なんです。坂﨑さんの自由研究の中でも、理科の先生から動物を研究することの難しさについてアドバイスされたと書かれているのですが、それでも果敢に挑戦したところが素晴らしいと感じました。毎日じーっと観察していたんだろうなと想像しながら、自分も研究しているつもりでお話を作っていきました。

川嶋 小学生が自分の目で観察しているので、学校に行っている間は観察できなかったり、家にいても見逃してしまったりもします。絵本でも原案の自由研究でも、データとしては完全でないことに気づきますが、たとえしっかりとした結論が得られなかったとしても、調べ上げてまとめたり、得られたデータから考察したりすることに価値があるし、そこからまた新たな発見が生まれたりもする。それは子どもにとって、非常に得難い経験になると思います。

かんちく 観察を通して動物研究の奥深さに気づいたり、猫の気持ちを知りたい!と新たな好奇心が芽生えたり……これもまた科学につながっていきます。ラストシーンの先にある可能性も感じてもらえたらうれしいですね。

猫が顔を洗った翌日に、晴れてしまうことも。『ネコは 天気を あてられる?』(講談社)より

「科学の芽」を絵本で育む

――「科学の芽えほん」シリーズは、どのようにして生まれたのでしょうか。

川嶋 今、世界的に科学絵本への注目が高まりつつあることから、講談社の編集部でも新たな科学絵本シリーズを創刊しようと企画が立ち上がりました。

 そこで注目したのが、筑波大学朝永振一郎記念「科学の芽」賞です。「科学の芽」賞は、2006年に創設された、筑波大学主催の全国規模の科学コンクールで、小・中・高校生の優れた自由研究が毎年表彰されています。受賞作品は筑波大学のWEBサイトで公開されているので、それらを原案に絵本化すれば、読者である子どもたちにとって共感度の高い科学絵本になるはず、ということで「科学の芽えほん」が生まれました。

 僕とかんちくさんは長年、スタジオ・ポーキュパインとして自然科学や生物を専門に本を企画・編集・執筆してきたので、その経験からお声がけいただき、制作チームに入りました。

かんちく 「科学の芽」賞という名前は、ノーベル物理学賞受賞者の朝永振一郎博士の言葉から付けられたそうです。「科学の芽えほん」の巻頭にも掲載されている、こんな言葉です。

ふしぎだと思うこと これが科学の芽です 
よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける これが科学の花です 
                        朝永振一郎京都市青少年科学センター所蔵の色紙より

「科学の芽」賞には、子どもたちの中に芽生えた、科学や自然への「不思議」や「発見」を大切に育みたいという願いが込められているんです。

川嶋 物事を科学的に捉え、考える力を育む「種」をそっと植えられたら……そんな思いで「科学の芽えほん」シリーズを作りました。

――「科学の芽えほん」全5冊は、かんちくさんがすべての文章を手がけ、絵はそれぞれ別の作家が担当しています。内容もバラエティに富んでいますね。

(左上から時計まわりに)『ダンゴムシは めいろの たつじん?』『たおれる? たおれない? 3本あし』『トマトパスタが はねる なぞを とけ』『たんたん タンポポの ひみつ』(いずれも講談社)

川嶋 たくさんの受賞作品の中から、生物、気象、物理、化学など、さまざまな分野の研究を原案として採用させていただきました。たとえば『たおれる? たおれない? 3本あし』(絵・北村裕花)は物理です。

かんちく ピアノの足台が壊れてしまったことから、3本あしの不思議に気づいた主人公が、根気よく実験を繰り返し、思いも寄らなかった法則を見つける、というお話です。原案となった菊地灯さんの受賞作からは、自分で発見することの喜びがまっすぐ伝わってきました。

川嶋 『ダンゴムシは めいろの たつじん?』(絵・スギヤマカナヨ)は、ダンゴムシがジグザグに進む「交替性転向反応」に注目して、迷路でその能力を確かめるという橋本類さんの受賞作を原案にしています。

かんちく 迷路をぐるぐる回してみたり、途中にダンゴムシが嫌いなものを置いてみたりと、実験方法がとても面白いんですね。自由研究からはダンゴムシをこよなく愛する気持ちが伝わってきたので、絵本ではそのあたりを主人公とダンゴムシとの会話という形で表現しました。

川嶋 『たんたん タンポポの ひみつ』(絵・山本久美子)は、タンポポの綿毛と種、育ち方を観察し続けた岩田くるみさんの受賞作が原案です。

かんちく 岩田さんはタンポポの研究を4年間続けていて、1年ずつ分厚いファイルにまとめていたんですが、中学3年生のときの研究をA4用紙10枚に詰め込んで「科学の芽」賞に応募したそうです。研究を続けるひたむきさと発見の喜びを物語に込めました。

川嶋 『トマトパスタが はねる なぞを とけ』(絵・北村みなみ)では、トマトパスタが大好きなのに、いつもソースがはねて服を汚してしまう、という身近な悩みを、オリジナルの実験器具を作って研究した今野柚季さんの受賞作を絵本化しました。料理を物理や化学の視点で解き明かすお話です。

かんちく いくつもの予想を立てて、実験と検証を繰り返し、結論にたどり着くまでの様子を、イラストレーター・漫画家の北村みなみさんがコミカルに描いてくれました。

川嶋 研究の末に導き出した完璧な食べ方というのがまたユニークで、イグノーベル賞っぽいユーモアを感じましたね。

――『トマトパスタが はねる なぞを とけ』では、お父さんとお母さんがせっせと実験をサポートしている姿も描かれています。

川嶋 親として子どもの自由研究にどこまで関わるべきかも、悩みの種のひとつですよね。子どものやる気を削がないためにも、口出しはできるだけ控えた方がいいと思いますが、この絵本で描いたような手伝い方なら、研究の後押しにもなるんじゃないかなと。親御さんには、「科学の芽」がすくすく育っていく様子をあたたかく見守ってもらいたいですね。

―― 巻末にはそれぞれの自由研究に関連した解説ページが見開きで入っています。

川嶋 お話の中で紹介した自由研究に、さらに深みや広がりを持たせるために入れました。自由研究のヒントにしてもらえたらうれしいです。

巻末には各研究に合わせた解説ページも『ネコは 天気を あてられる?』(講談社)より

研究を続けた先にあるものとは

―― タイパ、コスパという時代ですが、だからこそ自分の目で見て、手を動かして、試行錯誤しながら自分の頭で考えていくことの大切さを感じますね。

かんちく 子どもたちはとても瑞々しい感性で、物事を自由に捉えています。自分で気づいた「なぜ?」について、実験や観察を通して確かめていくのは、決して簡単なことではなくて、ときには失敗することもあると思うんです。でも、間違いを恐れずに研究を続けていけば、きっとその先に新しい発見や驚き、喜びがあるはず。

 これから自由研究に取り組む子どもたちには、「好き」という気持ちや「もっと知りたい」という好奇心のままに、「科学の芽」をどんどん伸ばしていってほしいですね。

川嶋 たとえばアリの巣を見つけると、つい水を入れてしまいたくなることがあると思うんです。親御さんはアリの巣に水を入れちゃだめでしょ!と注意したくなるかもしれませんが、その気持ちをぐっと堪えて見守っていると、巣の中はどうなっているんだろう?とか、しみこんだ水はどこにいくんだろう?とか、アリ以外のことにも発想が広がっていくんですね。そういう発想を逃さず、追究していってほしいなと思います。親御さんは、子どもの中に湧き上がった疑問や発想を否定せず、耳を傾けてもらえたらなと。

「ちゃんとした自由研究」をしなくては、させなくては、と考えてしまいがちですが、そんなに気負う必要はないんです。研究してみたら、必ずそこには何か発見が待っています。「面白いね!」「すごいね!」と、ポジティブな気持ちで自由に楽しんでほしいですね。