【一穂ミチと読む夏のホラー特集】恐怖生む人間の深淵をのぞき見る
連日えげつない暑さが続いていますが、皆さん、ちゃんと涼を納めてますか?
近年は海水浴客がめっきり減り、海水浴場も閉鎖が相次いでいるという。夏場になると水の事故のニュースが盛んに流れ、注意喚起が繰り返されるようになったことも影響していると思う。海にしろ川にしろ山にしろ、自然は時に人間の想定を超える暴れ方をするものであり、どんなに対策をしても絶対安全はありえない――なら、行かないほうがいっか! 君子危うきに近寄らず、身体ひとつで自然に飛び込んでいくアウトドアに腰が引けてしまう同志は、屋内でホラーを満喫しましょう。
先日は、初めてVRのお化け屋敷というのを体験してきた。ごっついゴーグルをかけて場内に足を踏み入れればあら不思議、そこは深夜の廃病院。効果音も臨場感があるし、おそらくは限られたエリアをぐるぐる回っているだけなのに、いくつもの扉を開けてエレベーターに乗り、広い病棟を探索している気分になれた。設備投資は必要だけれど、お化け役のキャストや大掛かりなセットはいらないので、令和のコスパ感覚的にもいいのかもしれない。ただ、側から見ると怪しい装置を被った人たちが何もない空間をゾンビのように徘徊して時に悲鳴をあげている、そんな光景こそホラーと言えなくもない。
さて、お化け屋敷にも出かけたくない、というガチインドア派の人には、やっぱり漫画がいちばんですね。真夏のホラー漫画特集2026、始まり始まり。
初手は「伴天連怪談①」(三木有/集英社)。伴天連とは、カトリックの宣教師や神父を指す。16世紀以降、伝道のため日本を訪れた彼らは、伴天連追放令によりキリスト教の信徒とともに激しい弾圧を受けた。
物語は、苛烈な取り締まりも落ち着き、半ば形骸化した切支丹屋敷で幕を開ける。主人公は21歳の青年・丈兵衛。死んだ両親がキリスト教徒だったため、6歳で切支丹屋敷に収監され、一生出られないことが決まっている。運命を受け入れ、淡々と生きていた丈兵衛だったが、ある晩、独房で「あくまばらい」の儀式を目撃してしまう。伴天連の祓魔師、「庵藤如」(おそらくアントニオ)との出会いで、丈兵衛はこの世ならざるものの深淵を覗き込むことになる。
とにかく漫画がうまい。高い画力と画面の構成力により、最小限にとどめた描写で最大限の恐怖を生んでいる。皮膚の下の肉、裸の魂に直接触れられるようなおぞましさと、悪魔という存在の底知れなさ。そして、信仰とは。救いとは。遠藤周作の「沈黙」にも通じる問いもまた、人間の深淵に違いない。
「伴天連怪談」が「静」のホラーなら、「動」のホラーが「MAMBA 特殊業務委託機関マジカルステップ第19分室①」(鉄一/KADOKAWA)だろうか。怪異とお堅い役所仕事のマリアージュがお好きな方、ありますよここに! あと、バディもの。
警察から業務委託を受け、怪奇事件に挑むのは元警官の鷹頭と、特殊な力を持つ少女・時村潤。見た目は子ども、中身は……らしいのだが、1巻時点で詳細は謎に包まれている。美麗なタッチと細やかな人物造形に定評のある著者は、ホラー描写もまたお手のもので、人の執着や怨念が具現化された異形たちは恐ろしく、潤がそれらを打ち破る場面はアクション映画のようにド派手でかっこいい。
「見た ならいるということです」
潤の言葉が、恐怖という感情の真理かもしれない。暗がりにうごめく何かを、鏡に映る自分の背後によぎる何かを、笑顔のスナップ写真の片隅に覗く何かを、見てしまった瞬間から、彼らは存在している。「いる」から「見る」のではなく、逆だ。
潤の秘密も、訳ありっぽい鷹頭の過去も、これから徐々に明かされていくのが楽しみ。
最後に、日本の夏にふさわしい土着系ホラー「お孵り①②」(原作・滝川さり 漫画・異賀邑里/マンガボックス)。
古くは横溝正史的な、外の人間においそれと門戸を開かない集落は、多くのミステリーやホラーの舞台にされてきた。結果、「因習村」というミームが定着し、地方への偏見を助長するという批判的な意見も目にするようになった。なので、あくまでフィクションとしてお楽しみいただきたい。
結婚の挨拶のため、婚約者・乙瑠の故郷に初めて訪れた佑二。山深い場所にあるその村には、出産を控えた乙瑠の姉も里帰りしていた。婚約者の実家というだけではない落ち着かなさを感じる佑二に、乙瑠も浮かない顔で「できればもうこの村には戻りたくない 一生」と漏らす。そして佑二は、村に伝わる「生まれ変わり」について教えられる。この村の人間は、死んでもまた別の村人の赤子として生まれてくる、と。
謎めいた儀式、意味のわからない童歌、と土着系のツボを押さえた展開に、黒が美しい異賀邑里の絵が映える。濡れ感のある、滴ってくるような黒だ。
真に怖いのはきっと、愛する人が、出会うずっと前から自分には理解できない価値観の中に組み込まれていて、そこから連れ出すのは容易ではないと気づいてしまうこと。自分もそこに同化するべきなのか、それとも――。
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というわけで、今年も3作品をご紹介しました。皆さん、熱中症にお気をつけてどうかよい夏、よいホラーを。