いまいあやのさんの絵本「くつやのねこ」 童話「長靴をはいた猫」から生まれた新たな物語
――「あきらめないで! よい かんがえが あります。ひとつ わたしに、いちばんよい 革で 長ぐつを つくってください。それを はいて 注文を もらってきますよ。」
飼い主である靴職人のため、知恵と勇気で魔物に挑む猫の姿がかわいらしい、いまいあやのさんの絵本『くつやのねこ』(BL出版)。フランスのシャルル・ペローの童話「長靴をはいた猫」をアレンジした物語だ。作品誕生のきっかけは、猫と靴のスケッチだった。
子どもの頃から絵を描くのが好きで、時間があるとスケッチをしています。作品を作るときは、スケッチをしながら描きたい動物を決めて、その動物を動かして物語を考えていくというスタイルです。そのときは、猫と靴を描きたくて、描いているうちに、そういえば「長靴をはいた猫」というお話があったなと気づいて、物語をアレンジしていきました。
はじめは、猫のご先祖様が「元祖長靴をはいた猫」だった、みたいな展開を考えました。でもそうすると、やっつけたはずの魔物がまた登場してしまうから、魔物にも先祖がいて……と考えているうちに話がややこしくなってしまって。 シンプルに靴を作る人が飼い主だったという設定にして、話をふくらませることに。
デビュー作品から一緒に仕事をしていた、スイスの出版社mineditionの編集者マイケル・ノイゲバウアーさんに作品のアイデアを伝えたら、「いいね!」と言ってもらえて、出版に向けて作りはじめました。
――原作は、貧しい粉引きの三男が、遺産として譲り受けた賢い猫の知恵により大出世をするという物語。どちらかというと、猫だけが活躍するような話だが、本作では靴屋もがんばっているのが印象的だ。
そうなんです。私の作品では、靴屋さんはしっかり働いています(笑)。原作では、猫が飼い主を公爵にするために、魔物が住んでいるお城を奪いますが、本作では奪ったお城を新しく靴屋にして繁盛するという展開にしました。物語が始まるきっかけとして、靴屋の仕事がピンチになり猫が助けに出るという流れと、うまく繋がったなと思います。
靴屋の設定をリアルにしたいと思って、靴作りの道具を調べたり、オーダーメイドの設計図を描いたりしました。描き始めてから、自分はあまり靴に詳しくなかったと気づいて、靴屋の店先でじっと観察することも。本当は靴屋に取材に行きたかったんですけど、残念ながらタイミングが合わなくて。
――魔物をねずみに変身させて退治するのは原作と同じだが、魔物に靴を履かせる、というのがアレンジのポイントだ。
魔物がいろいろな動物に変身できる、最後は猫が賢く機転をきかせる、という原作の部分は生かそうと思いました。でも、猫がいろんな人を騙したり倒したりと強い感じだったので、そこはもう少しシンプルに、靴の注文をとってきて、変身した動物に合わせた靴を作るという流れに。魔物はいろんな靴を注文するのにお金を払わないので、猫がどうにかしないと、と考えるという展開にしました。
――いちばんの見どころは、原作同様、猫がねずみを食べてしまうシーン。描かれているのは食べた後の場面ではあるが、ドキリとさせられる。
それまでのお話とガラッと変わって、猫が野生に戻る場面です。編集者のマイケルさんがいたずらっ子で、打ち合わせのときにお皿にケチャップをつけて「こういう絵にしよう」って(笑)。ここまで描くつもりはなかったんですけど、絶対あった方がいい、と。描き始めたら、ちょっと楽しくて、血の垂れ方とか、「もっとリアルに」と思っている自分がいました(笑)。この表現は強すぎるんじゃないかと言われることもありますが、私は猫の生態のリアルさがあって良いと思います。
――本作の魅力のひとつが、なんともいえない猫の表情。髭の1本1本にも表情があり、猫らしさであふれている。
猫は昔から好きなモチーフでよく描いています。飼ったことはないのですが、祖母の家にいて、よく見ています。何を考えているのかわからないような感じが、猫のいいところかなと思っています。本作では、猫が靴を履いて出かけるところが気に入っています。靴を履くことで、猫から脱して人間の世界に入っていくみたいな感じが好きですね。猫だけでなく、動物を描くのが好きです。魔物がねずみに変身して靴を履いている場面は、靴に取り憑かれた魔物が、やっと履けるとワクワクしている気持ちを表現しました。
私にとって、人間を描くのが難しくて。動物は、自分が好きな顔を描いても、みんなに納得してもらえるんですけど、人間は好みがあるような気がして、わりと描くのを避けがちです。本作でも飼い主の顔は描きませんでした。
私の他の作品も動物の話が多いのですが、それは、マイケルさんに「どんな世界の子どもも、動物が主人公の方が本に没入できる。自分を投影できる」と言われたことも影響しています。人間は人種の違いなどもあって、自分とあまりにも違う人間だと、一緒に物語を進めていけないのかなと思っています。
――本作は、2009年に英語版とドイツ語版で刊行後、2010年に日本で出版。2011年にはスロバキアで開催されたブラチスラバ世界絵本原画展で、「子ども審査員賞」を受賞した。
絵本の読者である子どもたちに選んでもらえて、とても嬉しかったです。審査員の子どもたちからは「色彩と画面の構成が良かった」と言ってもらえました。絵本の雰囲気がスロバキアの風土に合っていたのか、スロバキア語でも出版されたのも嬉しかったです。
――「絵を描いて生きていきたいと思って、絵本の世界を選んだ」いまいさん。作品作りでは「絵に説得力があるか」を心掛けているという。
絵本は子どもの頃から読んでいましたが、大学生のとき児童書に挿絵を入れるアルバイトがあり、初めて絵本作りも絵を描くことだと気づきました。大学で学んでいた日本画は大きなパネルで製作しますが、挿絵は机の上で描けることも新鮮で、絵本の仕事に興味を持つようになりました。
日本画では質感を伝える、リアリティーを求められます。その経験もあり、質感が出せているか、絵が説明的になっていないか、説得力があるか、悩みながら描いています。『くつやのねこ』でも猫が魔物の城に行く場面では、森の広さを伝えるために見開きにしました。どうしたら森の暗さを表現できるか悩みながら描きました。
絵が説明しすぎないようにしつつ、お話にないものを足すこともあります。表紙の絵には物語には出てこない蛾がいたり、文章にはないけれど猫が靴紐を引っ張っていたり。ないものを足すことで絵に広がりが出るように思います。一方で、説明しない方がいいこともあるので、魔物の顔は描かない。描かないことで大きさが強調されます。絵本の仕事でも、私にとっては絵を描くのがメインなので、毎回、四苦八苦しながら描いています。
――絵本作家デビューから15年。現在は、生まれ育ったイギリスの童歌を題材にした作品を進めている。
「マザー・グース」のお話です。イギリスでは誰もが知っている童歌で、私も子どもの頃から親しんでいました。娘が生まれてから、子どもを身近で観察することが多くなったので、苦手意識のある人間も描いてみたいなと思っています。子どもと絵本を読むようになって、絵本の捉え方も変わりました。エリック・カールの『はらぺこあおむし』(偕成社)も、改めて読んでみると、構成も内容も完璧で、すごい絵本だなと思いました。子どもの影響で絵本作りが変わるか、変わらないかはわからないけれど、この先も悩みながら作っていきたいです。