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「ディスカバード・ジャパン」書評 撮りためた写真が帯びる批評性

評者: 梯久美子 / 朝⽇新聞掲載:2026年08月29日
ディスカバード・ジャパン: 鉄道沿線に見るこの国の姿、今昔 著者:大木 茂 出版社:現代書館 ジャンル:趣味・実用

ISBN: 9784768459911
発売⽇: 2026/05/27
サイズ: 18.2×25.7cm/512p

「ディスカバード・ジャパン」 [著]大木茂

 世に鉄道本は多いが、本書は類例がない。
 500ページ超えの大著である。見開きの左ページに新旧2枚の写真が上下に並ぶ。上は1960~70年代、下は2010~20年代。1人の写真家が同じ路線の同じ場所を撮影したもので、北海道から鹿児島まで、半世紀の沿線風景の変遷が一目瞭然だ。右ページには解説と撮影時のエピソードが記されている。
 著者は高校・大学時代、消えつつあった蒸気機関車を追って、カメラを手に各地を旅した。プロの写真家になり、さまざまな媒体で仕事をしたあと、古希を前にかつての撮影地を再訪しようと思い立つ。そして足掛け10年をかけて撮り終えた。
 ページをめくっていくうちにため息が出た。モノクロ写真のノスタルジックな叙情性を差し引いても、昔の風景の方がずっと美しいのだ。
 それはなぜか。注意深く見ると、昔は田畑だったのに、うっそうとした藪(やぶ)になっているところが多いと気づく。耕作放棄地が増えているのだ。
 そして無秩序に広がる工場用地。丘を切り崩して造成した住宅地。うち捨てられた空き地……。〈生活は「豊か」になったはずなのに、多くの場所が「荒廃」していたのだ〉と著者は書く。
 呉線(広島県)沿線で50年前の撮影場所を探していた著者は80歳の女性と出会う。このあたりはあまり変わっていないと言われて昔の写真を見せると「ありゃあ……ずいぶんと変わっとるのぅ…」と彼女は驚くのだ。
 人は毎日見ている風景の変化を気にとめない。だがこうして新旧2枚の写真を並べて見せられると、見過ごしてきたものの大きさに気づかされる。同時に、鉄道写真がこうした形で批評性を発揮することがあると教えられる。
 この本の書名は「日本再発見」ではなく「ディスカバード(カバーを外す)」、つまり「この国の仮面を剝がす」という意図があるという。なるほど。
    ◇
おおき・しげる 1947年生まれ。雑誌や映画の写真撮影に携わる。著書に『ヨーロッパ汽車の旅』『ぶらりユーラシア』など。