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通説を塗り替え、多文化社会の実態明かす「中世シチリア王国の謎」 辻浩和の新書速報!

  1. 『中世シチリア王国の謎』 高山博著 祥伝社新書 1100円
  2. 『日本城郭史』 中澤克昭著 ちくま新書 1320円

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 事態が行き詰まった時、やり方を変えてみるとうまくいくことが多い。新たな方法論で研究を切り拓(ひら)いた2冊を紹介したい。

 (1)が扱う中世シチリアはラテン、ギリシア、イスラムの三つの文化が併存した多文化社会であり、その影響は行政制度や官僚組織にまで及んでいた。ラテン語、ギリシア語、アラビア語で書かれた史料を突き合わせることで、行政制度の構造や機能をめぐる通説を次々と塗り替えていく過程が、本書の見どころだろう。西洋史家である著者は中世シチリアの研究を通して「異なる文化や宗教が出会い、ときに対立し、ときに共存する社会」のあり方を問いかける。多文化社会に応じた柔軟な行政の仕組みがとられていたとする指摘は、特に興味深い。

 (2)の著者は狩猟や肉食、城郭など多角的に武力や武士を論じてきた日本中世史家。従来の城郭史研究は、現代の私たちが城だと思えるものを対象にしてきたが、本書は中世の人びとが「城」という言葉に込めた意味を問い直す点が新しい。「城」はもともと反乱や異民族など私的な武力の象徴であり、朝廷や鎌倉幕府が構えるものではなかった。しかし南北朝期になると地域の平和のために城を構えるという新しい観念が生まれ、「お城」の呼称も登場するという。武士だけでなく寺院や村落の城も取り上げ、古代から近世まで見通す「城郭観の通史」が展開される。軍記や絵画史料による具体的な城郭構造の読み解きも楽しい。=朝日新聞2026年10月3日掲載