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「不自然な食卓」/「料理からたどるアガサ・クリスティー」書評 食品リスクと幸せになるレシピ

評者: 望月京 / 朝⽇新聞掲載:2025年02月01日
不自然な食卓: 超加工食品が人体を蝕む 著者:クリス・ヴァン・トゥレケン 出版社:早川書房 ジャンル:社会学

ISBN: 9784152103659
発売⽇: 2024/09/19
サイズ: 13.1×18.8cm/472p

料理からたどるアガサ・クリスティー:作品とその時代 著者:カレン・ピアース 出版社:原書房 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784562074303
発売⽇: 2024/08/16
サイズ: 19.5×2.5cm/230p

「不自然な食卓」 [著]クリス・ヴァン・トゥレケン/「料理からたどるアガサ・クリスティー」 [著]カレン・ピアース

 肥満は生活習慣(過食、運動不足)由来と思われがちだ。医師でもある『不自然な食卓』の著者は、本来食物ではない化学物質満載の「超加工食品」こそがその原因だと、論文精査と自身や家族の食品摂取比較実験をもって証明する(著者の兄は超加工食品をやめ数カ月で20キロ減量)。
 プラスチックで包装され、家庭のキッチンで普通に見られない材料が一つでも入っていれば超加工食品だと著者は説明する。市販のパン、シリアル、マヨネーズなど、安く早く楽に食べたい消費者のニーズと、低コスト高収益を求める製造者の思惑が一致した結果、工業的に生産される代替物や添加物の比率は上がり、健康上利点のない「食品」が蔓延(まんえん)する。
 非加工食品ならば、幼児でもひととおり食べて安全性や好み、体が要する栄養と適量を自然に把握する(過食にならない)が、人工合成された超加工食品とその包装はそうした機能や体内の微生物叢(そう)を乱し、肥満、消化不良、うつ、発育阻害、摂食障害、がん、依存症、認知症、高血圧など数々の疾患リスクを高めるという。これらの超加工食品を売る企業がいかに医療従事者を黙らせるかなど、明らかにされる様々な実態や、自らの健康のために私たちがすべきことへの提言に目が覚める思いだ。
 『料理からたどるアガサ・クリスティー』は、彼女の小説に登場する料理をその場面とともに、当時(1920~70年代)の手法に沿ったレシピと解説で紹介する。超加工食品は皆無だ。エキゾチックな料理もあるが、お菓子や飲み物、家庭で作れるシンプルなレシピがこよなく魅力的に伝わるのはクリスティーの表現力か、「新鮮な」「極上の」などの記述が目立つ材料表ゆえか。
 社会史的側面や食文化の変遷も垣間見られ、こんな場面にはこのメニューをなど著者の創意工夫が楽しい。本能が満足する食のありようか、豊かで幸せな気分になる。
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Chris van Tulleken 英国の感染症専門医、BBCの放送作家▽Karen Pierce カナダのミステリー小説・料理愛好家。