「独裁者たちの最期の日々」書評 制裁の恐怖、自律的な判断奪う
ISBN: 9784562053773
発売⽇: 2017/03/03
サイズ: 20cm/216p
独裁者たちの最期の日々(上・下) [編]ディアンヌ・デュクレほか
以下の3問に正答できれば本書は不要である。
問1 「スコットランド最後の王」と自称した独裁者は誰か?
(1)ヒトラー (2)パフラヴィー二世 (3)アミン
独裁者たちは、しばしば歴史上の偉人の後継者を自任し、過去の栄光の再現を夢みて暴走した。ヒトラーは絶望的な地下壕(ごう)でプロイセンのフリードリヒ大王の肖像画を仰ぎ、200年前の奇跡の再来を祈った。イランのパフラヴィー(パーレビ)二世は、2500年前のアケメネス朝ペルシャに回帰して、反発するイスラム教徒を弾圧した。
ウガンダのアミンは、拠(よ)るべき先人を見いだせなかったため、大英帝国に対抗する架空の英雄像の皮をかぶり、「スコットランド最後の王」と自称して国家元首の座に登り、30万人のウガンダ人を虐殺した。
問2 危篤状態で48時間放置された独裁者は誰か?
(1)スターリン (2)毛沢東 (3)フランコ
独裁は恐怖によって支えられるのを常とする。独裁者の意に背けば苛烈(かれつ)な制裁が待つという恐怖が、人びとから自律的な判断力を奪い、部下たちは従順に命令を遂行するだけのロボットと化す。スターリンが脳出血で倒れた時、周囲の誰も医者を呼ぶ決断ができず、たまりかねた女中頭らの直訴で医師団が到着したのは、48時間後であった。
毛沢東の周囲も同様で、死期が近いとの診断結果を誰も彼に告げなかった。フランコは死期を察知し、カルロス王子を後継者に指名したので、スペインは混乱なく王政に復帰した。
問3 独裁者の登場は防ぐことができるか?
(1)不可避 (2)回避可能
下水管で横死したカダフィ(リビア)、カーチェイスに散ったトゥルヒーリョ(ドミニカ共和国)。本書に居並ぶ各国の24人を前にすると、世に独裁者の種は尽きまじとの感がつよい。
けれども、みずほの国は不思議とその災厄からまぬかれている。
◇
Diane Ducret ドキュメンタリー作品を制作。歴史番組の司会者もつとめる。著書に『女と独裁者』。