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「宇宙飛行の父 ツィオルコフスキー」書評 独学で打ち立てたロケット理論

評者: 宮田珠己 / 朝⽇新聞掲載:2018年03月04日
宇宙飛行の父ツィオルコフスキー 人類が宇宙へ行くまで 著者:的川 泰宣 出版社:勉誠出版 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784585221968
発売⽇: 2017/11/30
サイズ: 19cm/306p

宇宙飛行の父 ツィオルコフスキー―人類が宇宙へ行くまで [著]的川泰宣

ツィオルコフスキーって誰?とタイトルを見たほとんどの人は思っただろう。私も思った。
 ロケットの推進原理を打ち立てたロシアの科学者だそうだ。彼の理論をもとに、ソビエトは世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げ、ガガーリンの宇宙飛行も成功させた。日本の小惑星探査機「はやぶさ」に使われたイオンエンジンも、元々は彼のアイデアだったというからすごい。
 ノーベル賞級の業績にもかかわらず、あまり知られていないのは、長くソビエトの鉄のカーテンに隠されていたからだ。今でも本国以外で彼の評伝を見たことがないと著者はいう。つまり本書も本邦初になる。
 ツィオルコフスキーの人生は苦難の連続だった。1857年モスクワからそう遠くない村で生まれ、小さい頃はマッチ箱にゴキブリを入れ凧(たこ)に載せて飛ばし、引き寄せてはゴキブリの状態を観察するような探究心旺盛な子どもだった。しかし10歳のときに病気で聴力のほとんどを失い、人生が暗転。小学校も卒業できず、さらに最愛の母も死んでしまう。成長し都会に出た後も、貧乏で学校に通えず、黒パンと水だけで暮らしながら図書館で学んだ。
 宇宙にいく機械のアイデアに目覚めたのはこの頃らしい。数学教師の職を得た後も、独学で研究を続け、やがて1903年、後に宇宙航行科学の土台となるツィオルコフスキーの公式を発表する。
 その後も息子の自殺未遂や家が流されるなどの不幸が続くが、彼がすごいのはめげないことだ。いや、めげていたのかもしれないが、それ以上に宇宙にとりつかれていた。宇宙での宇宙飛行士の動きを描いた彼のスケッチを見ると、その見てきたような正確さに驚くと同時に、絵が楽しげで魅入られてしまった。なんという健やかさ。
 その健やかさこそが天才を支えた土台だったにちがいない。そんな気がした。読後爽やかな評伝。
    ◇
 まとがわ・やすのり 42年生まれ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授。『人類の星の時間を見つめて』