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「人類、宇宙に住む」書評 億年単位の生存本能が導く冒険

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月22日
人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ 著者:ミチオ・カク 出版社:NHK出版 ジャンル:天文・宇宙科学

ISBN: 9784140817766
発売⽇: 2019/04/25
サイズ: 20cm/450p

人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ [著]ミチオ・カク

 宇宙に多額の予算が投入され続けるのはなぜか。
 惑星探査は生活に役立つわけでなく、国際宇宙ステーションも日本が投じた約1兆円の効果が問われる。
 そんな疑問が、ある国会議員の一言で腑に落ちた。「予算は内部で使わず、できるだけ発注にまわせ」。施策説明する宇宙航空研究開発機構の幹部に言い放った。ロケットや探査機は受注企業の利益や雇用につながる。宇宙はロマンであり、公共事業でもあった。
 でも、それだけか。著者は地球に住めなくなったときの人類生存の場を探すという大きな意義を提示する。「宇宙計画をもたなかったがゆえに絶滅した」恐竜の二の舞いとならないために。腹の足しにならないブラックホールの謎に興味を抱き、小惑星探査を応援するのは、生存本能がさせているのかも知れない。
 「惑星天文学の聖杯」という地球に瓜ふたつの星を探しだし、そこへ行く技術を開発できるのか。本書は「地球を離れる」「星々への旅」「宇宙の生命」の3部で構成。宇宙に出る目的を考え、人類と宇宙の歴史と未来を大きな枠組みで整理する。民間のロケット開発、月面基地や火星探査の構想といった最近の動きを考える手がかりにもなる。
 スターシップ(恒星間宇宙船)の開発、エネルギー源。物理法則を踏まえて考察する将来の技術的可能性は〝映画化不能〟なスケールで展開される。万年、億年単位での人類の生存本能が、費用対効果の議論を超越して、宇宙予算を投じさせている気がしてきた。
 知的生命体と未接触の理由、宇宙旅行の方法、生物学的ではない「デジタルな不死」。宇宙進出の議論は科学技術と人類や国家の関係も問い直す。15世紀、世界に大艦隊を派遣しながら内向きに転じた中国を引き合いにした「科学や技術に背を向ける国家」が簡単に転落するという指摘は、訳者も言及するように、科学が十分に尊重されていない日本の現状と重なる。
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 Michio Kaku 1947年生まれ。ニューヨーク市立大教授(理論物理学)。著書に『パラレルワールド』など。