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阿刀田高「漱石を知っていますか」書評 独自のものさしで文豪を採点

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2018年02月18日
漱石を知っていますか 著者:阿刀田 高 出版社:新潮社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784103343301
発売⽇: 2017/12/22
サイズ: 20cm/349p

漱石を知っていますか [著]阿刀田高

夏目漱石をどのように読むか。現代文学の主軸に位置する著者が、漱石文学を一作ごとに解剖し、その作品についての採点を試みた異色の書である。
 『吾輩は猫である』を皮切りに『明暗』までの13作品が著者の目で読み解かれる。作品は漱石の発表順になっているが、おのずとそこには流れがあるという。『猫』はとくにストーリーはなく、「観察と描写と博識のおもしろさ」だが、『坊っちゃん』にはストーリーがあり、いわば「善玉と悪玉」のその活劇が小説のパターンとなっている。『草枕』になると「芸術を思案し検討するページ」「男と女の関係など小説的なページ」がたがい違いに描かれる二重構造の作品にと変化しているというのだ。ストーリーの展開をなぞりながら(現代文に直しているのもわかりやすく)説いていくので、読者としてはなるほどとうなずける。
 著者は漱石文学は案外最後まで読まれていないのではとの指摘もするが、それは漱石の教養や知識、あるいは人間観が必ずしも小説としてすべて成功しているわけではないからと見ているようである。各々(おのおの)の作品を論じた末尾にはAからFまでの「ものさし」をつくり、ストーリーのよしあしから、知識の豊かさ、文章のよしあしなどを5段階に分けて採点し、六角形で図形化している。『猫』や『坊っちゃん』は19点、『草枕』20点、『三四郎』が25点だが、もっとも点が高いのは『それから』と『こころ』の28点といったところだ。『それから』の主人公・代助の《真実の愛を貫きたい》という人間としての“自然”こそ文学の存在理由だとも説く。知識の豊かさ、小説としての現実性に4をつけた以外すべて5点満点である。
 著者は、漱石作品は日本語の良い例を示し、「後代に著しい宝物を残した文豪」と認めるも、「女性軽視」の面があり、この点が“国民的作家”たりえないと惜しんでいる。
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 あとうだ・たかし 35年生まれ。作家。著書に『ナポレオン狂』『ギリシア神話を知っていますか』など。