ユニセックスな服に、大きなピアスとネックレス。彩り豊かな十指の爪。記者とは少し高く柔らかな声であいさつを交わした。
36歳の時に男性器を摘出。男性をやめたが、ホルモン注射は打たず女性にもならなかった。
近年、世の中ではセクシュアル(性的)マイノリティーについて考える機会が増えたが、「私はマイノリティーの中からもこぼれ落ちた存在なんです」と言う。
「性」を手放す葛藤を描いた、この本は訴える——
「想像してみて下さい」
あなたから性別を除いたとしたら、今のあなたをとりまく愛(いと)しいものは、どれだけ残りますか。
自分の性がほかの人たちと違うと明確に認識したのは高校2年の時。クラスが男女別になると、どうしても教室に行けなくなった。学校に来るよう励ましてくれる友人もたくさんいたが、中退した。
その後、男性に恋をした。嫌悪せず受け止めてくれたが、女の人を好きになる人だった。かなわぬ思いに傷つき悩んだ。救ってくれたのは、両親や友人だった。「まだ心の寿命は尽きていない」
でも、「私は何者なのだ?」。そんな問いからは逃げられなかった。孤独への恐怖もあった。居場所を求め、ゲイや性同一性障害の会合に参加した。しかし、どこもしっくりくる居心地のいい場所ではなかった。
結局、男性でも女性でもない「X(エックス)ジェンダー」なんだ、と自覚した。「私の性は宙(ちゅう)ぶらりん」と書く。手術はそんな自分に近づくために受けた。術後に出血が止まらず再び病院に担ぎ込まれたことにも触れた。「それほどの覚悟が必要だから」
「差別や偏見で生きづらさを感じる社会はおかしいと思う。しかし社会の差別や偏見と、個人が抱える悩みは必ずしも直結しない」
会社員として過ごすいま、どちらにも属さないからこそ、たくさんの人から愛されるのだとも思える。でも、やっぱり「どちらかの性を謳歌(おうか)したかった」とも。「自分自身が必死で悩まないと、幸せにはなれない」と思う。だから言いたい。「一緒に悩みましょう」
(文・塩原賢)=朝日新聞2017年06月18日掲載
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