「バルタン星人を知っていますか?」と聞かれて「知りません」と答える人は、現代日本に何人いるだろう。バルタン星人が登場した「ウルトラマン」の第2話「侵略者を撃て」が放送されたのは1966年7月。TBSの社員だった飯島さんが千束北男の名で脚本を書き、自ら監督も務めている。
「ウルトラ」シリーズは半世紀にわたって放送されているが、その間、バルタン星人は何度も地球にやって来た。人類最強の敵でありながら、人類の映し鏡でもあるどこか憎めない宇宙人。親から子へ、子から孫へと人気が受け継がれた。「黒澤明監督や木下恵介監督を知らない人はいても、バルタン星人は大抵の人が知っている。とてもありがたいことですよね」
50年使えるフォーマットがどうして出来たか。「決して整然と出来たわけではありません」。怪獣路線への唐突な変更。着ぐるみ使い回し。「何を作っているか分からないが、とにかく買ってくれ」とスポンサーに頭を下げる営業局長。「カオスの中から苦しみ抜いて生まれたんです」。ここには当時のテレビ局にあって、今は失われたことがたっぷり書いてある。
飯島さんは大人のドラマ班から「ウルトラ」に異動してきた。周囲には同情する人もいた。「子供向けに作るが、子供をあやすだけの番組にはしない。そんな気構えがありました」。だから「ウルトラ」の作り手たちは、科学や経済至上主義に警鐘を鳴らした。人間など卑小な存在にすぎないことを当時の子供たちに教え込んだ。
初期シリーズは、シンプル・イズ・ベストだった。ところが時代が下るにつれてウルトラマンが大量に登場し、怪獣もゴテゴテしたデザインになってきた。飯島さんは、玩具など商品化ビジネスが優先されるようになったからだとして、こう書いている。「そこからの要望が過大に作品に逆流することがあっては、ウルトラマンが持つ本来のパワーを削(そ)ぐことにならないかと思うのです」
「ウルトラ」の現状に、バルタン星人の生みの親が愛情を込め、本気で苦言を呈する。この本の最大の読みどころはここにある。
(文・石飛徳樹 写真・郭允)=朝日新聞2017年8月6日掲載
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