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池上彰・佐藤優「僕らが毎日やっている最強の読み方」 知った気になってませんか?

僕らが毎日やっている最強の読み方―新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意 [著]池上彰・佐藤優

 15年前、警察担当の新聞記者として社会人生活を始めた私は、朝から深夜まで事件・事故を追い掛け、上司に怒られ、刑事に怒鳴られる日々を送っていた。
 腰が引けた姿勢で働く私に、当時のデスクが掛けてくれた言葉が忘れられない。
 「理想の仕事がしたければ、自分で環境を整えろ」
 学生時代から引きずっていた甘えが、スッと消えていった。高い意識を持って準備を続けなければ、晴れの舞台には立てないという教えだった。
 情報の世紀を生きる私たちにとって「情報の収集と選択」は、不可欠な準備の一つだ。池上彰氏と佐藤優氏という現代の知の巨人たちが惜しげもなくその技術を明かしたのが本書である。
 毎日10紙以上に目を通すという両氏だが、池上氏の初読は見出しに目を通す程度で、就寝前に気になった記事を読む。新聞に関しては2時間と決め、ストップウォッチを片手に紙面と向き合うのが佐藤氏のスタイル。労力を最小限にした記事の保管法も紹介されているが、二人に共通するのは、時間制御の妙だ。
 両氏が訴える「ネット断ち」は、ネットサーフィンで時間を捨て、SNSで神経過敏になっている現代人にとって極めて重要な提案だ。「何を読まないか」という指摘は、なるほど鋭い。
 佐藤氏は、特定のものが大きく見えることで死角を生む「プリズム効果」という言葉で、ネット時代の「知った気でいること」へ警鐘を鳴らす。メディアの変遷に翻弄(ほんろう)されないジャーナリズムが肝要だと、痛感する。
 そのほか「知るための新聞、理解するための書籍」「書籍のベースになっている『タネ本』を熟読する」「初々しさで語り手から情報を引き出す」など、本書は至言に溢(あふ)れている。
 情報が知識となり、知識が教養となる、という池上氏の含蓄ある言葉を15年前の私に聞かせてやりたい。今、気疲れしているだろう新社会人の皆さんの手にこの「情報化社会の教科書」が届くことを心から祈っている。(塩田武士=作家)
    ◇
 東洋経済新報社・1512円=2刷12万部
 16年12月刊行。30〜40代の男性によく読まれている。「幅広い対談で、“刺さる箇所”が読者によって違うのも特徴です」と担当編集者。=朝日新聞2017年4月16日掲載