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東直子が薦める文庫この新刊!

  1. 『写真で辿る折口信夫の古代』 芳賀日出男著 角川ソフィア文庫 1685円
  2. 『恋する狐』 折口真喜子著 光文社時代小説文庫 626円
  3. 『奇跡の人』 原田マハ著 双葉文庫 780円

 過ぎ去った時代の人の心に寄り添う喜びを感じることのできる3冊を紹介したい。
 折口信夫は民俗学者として知られているが、歌人の釈迢空として「人も 馬も 道ゆきつかれ死にゝけり。旅寝かさなるほどのかそけさ」などの深遠な短歌を残している。苦しい旅を重ね、各土地に生きる人々が受け継いできた文化を研究した。(1)は、その足跡を鮮やかなカラー写真とともに辿(たど)ることができる。折口の見た世界を視覚的にも追体験できる醍醐味(だいごみ)がある。
 (2)は、短編集。江戸時代の市井の人々の営みの隙間にふと、不思議な現象が立ち上がる。各話に画家で俳人の与謝蕪村が登場し、時に一句をしたためる。俳句の内側に込められた情感があふれ出す。
 (3)は、ヘレン・ケラーとサリバン先生の逸話を、同じ時代の日本の青森を舞台として描いた意欲作。三重苦を抱える少女のれんのために、自らも弱視というハンディを抱えながら奮闘する安(あん)。知性と共にある清々(すがすが)しいほど一途な姿は、現代人の心の背を押してくれるだろう。=朝日新聞2018年02月11日掲載