- 『ダーク・マター』 ブレイク・クラウチ著 東野さやか訳 ハヤカワ文庫 1188円
- 『夜哭烏 羽州ぼろ鳶組』 今村翔吾著 祥伝社文庫 734円
- 『洋子さんの本棚』 小川洋子・平松洋子著 集英社文庫 626円
(1)は、「ウェイワード・パインズ」三部作(必読の傑作『パインズ』『ウェイワード』『ラスト・タウン』)の作者らしいスリリングな秀作。相変わらず奇想天外な設定と予測のつかない展開で一気読み。終盤では息切れするものの、それでも自己同一性の問題を掘り下げながら、家族の愛と絆を打ち出して力強い。
(2)は、羽州新庄藩の火消(ひけし)組織「ぼろ鳶(とび)組」の活躍を描く時代小説で、火消たちの矜持(きょうじ)が胸をうつ。この世には命をかけて守るべきものがあることを高らかに謳(うた)いあげている。果敢に業火の中に飛び込み仕事をなしとげる男たちの颯爽(さっそう)とした心意気と、それを見守る家族の姿に思わず落涙。
(3)は、同郷で同世代で名前も同じ二人が語り尽くす本と人生の話。一体人間とは何なのかを本との出会いを通して様々な観点から追求する。古今東西の小説の名作からノンフィクション、写真集、料理本まで自由自在にとりあげ、ときに個人の記憶を探りながら普遍的な課題に至る。愉(たの)しくも奥の深い、箴言(しんげん)にみちた対話集だ。=朝日新聞2017年10月29日掲載