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自分はキウイ?悩む姿に共感

「かわをむきかけたサトモちゃん」

 サトモちゃんは里芋。そう自分を信じていました、こんな怪文書(?)が届くまでは。「じつは、あなたは キウイです」
 ただのイタズラと思いつつ、だんだん心配になってきます。誰に聞いても鏡を見ても胸がざわつき、「だいじょうぶよね。さといもよね」。甘い香りのキウイに会いに行って笑われたり、中の色を確かめるため自分の皮をむこうとしたり……。「脱皮」には痛みが伴うもの。アイデンティティーの危機に悩む里芋の姿がおかしくもいじらしく、理屈抜きに共感できます。
 絵本デビュー作となる作家の文を、ベテラン画家の切り絵が表情豊かにパワフルに躍動させています。葛藤の末の、里芋らしい自己肯定の場面では、ゆかいな解放感に包まれます。(絵本評論家・作家 広松由希子)
 ★えぐちよしこ文、織茂恭子絵、アリス館、税抜き1400円、4歳から

「ファニー 13歳の指揮官」

 ユダヤ人の少女ファニーは2人の妹とともに施設で暮らしていたが、ナチスの手から逃れるために子どもたちだけでフランスからスイスへと向かう危険な旅に出ることになる。運命に立ち向かい、子どもたちのリーダーとして行動するファニーの勇気に心が打たれる。第2次世界大戦中の実話をもとに書かれた物語。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫)
 ★F・ベン=アミ著、G・ロンフェデル・アミット編、伏見操訳、岩波書店、税抜き1500円、小学6年から

「この本をかくして」

 戦火を生き延びた少年がすべてを捨てて守ったのは、自分たちのルーツが刻まれた一冊の本。歴史や文化は尊い宝だ。町は再建できても、それらは伝えなければ途絶えてしまう。大事なのは自分につながるものを知り未来に伝えていくこと。読み終えてからカバーを外すと、装丁に込められた思いに胸が熱くなる。(丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵)
 ★M・ワイルド文、F・ブラックウッド絵、A・ビナード訳、岩崎書店、税抜き1500円、小学1年から=朝日新聞2017年8月26日掲載