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辻山良雄が薦める文庫この新刊!

  1. 『星戀(ほしこい)』 野尻抱影、山口誓子著 中公文庫 778円
  2. 『プレヴェール詩集』 ジャック・プレヴェール著 小笠原豊樹訳 岩波文庫 907円
  3. 『パタゴニア』 ブルース・チャトウィン著 芹沢真理子訳 河出文庫 1296円

 今年は秋の訪れが早いようだが、そんな気分に合う、ロマンティックな文庫が次々と刊行されている。(1)は俳人・山口誓子が詠んだ「星」の句に、野尻抱影の天文随筆を重ねて編んだ、十二カ月の星の愉(たの)しみ。天空の下では、人間の存在は小さく、謙虚だ。星を愛した2人のことばから、折々の自然が、身体中に沁(し)みわたる。
 (2)は長らく待たれていた、フランスの国民的詩人の魅力が凝縮されたアンソロジー。平易に書かれた詩篇(しへん)は、ことばをゆっくりと追いかけ、それを自分の胸の内に問いかけるだけで、感情がじわりと拡(ひろ)がる。よい詩は、誰にでも開かれていながら、それぞれの心の深みにまで達していく。
 自らのいる場所に、旅が生まれる。(3)はそのような個人の視点が徹底して貫かれた、紀行文学の古典。一つのエピソードがさらなるエピソードを生み、出会う人がいまそこにいるかのように、魅力的に描かれる。旅行記と文学のあわいにあるような、饒舌(じょうぜつ)な文章がたまらなくよい。=朝日新聞2017年09月17日