- 『口訳万葉集』(上・中・下) 折口信夫著 岩波現代文庫 各1512円
- 『ひたすら面白い小説が読みたくて』 児玉清著 中公文庫 886円
- 『フロスト始末』(上・下) R・D・ウィングフィールド著 芹澤恵訳 創元推理文庫 各1404円
(1)は、折口信夫が1916年から翌年にかけて発表した文学史上初の口語訳万葉集。万葉集がこれほど身近で、美しく切なく響く歌集であるとは思わなかった。学問としてよりも、共感と憧憬(しょうけい)を覚える書物として折々に触れたい。
(2)は、俳優・児玉清の文庫解説集だが、どれも読み応えがある。何よりも感動と興奮があり、喜びと楽しさがあり、本と作家に対する愛が脈打っている。人の心を鷲掴(わしづか)みにする書き出しから、作品のみならず作家論へと話を広げて縦横無尽。感嘆。脱帽です。
(3)は、複数の事件が同時並行していく警察小説の傑作。相変わらずプロットは素晴らしく巧緻(こうち)で、語り口は素晴らしく下品(笑)。強制異動の標的になったフロスト警部は無能な上司と戦い、部下たちをねぎらいながら、不眠不休の捜査活動に邁進(まいしん)する。最後の最後まで、それこそ最終行まで読ませる圧倒的な面白さだ。フロスト警部ものの第6作で最終作。過去5作すべて年間ミステリーのベスト1に輝いたが、本書もベスト1は確実。必読!=朝日新聞2017年07月16日掲載