- 『おはなしして子ちゃん』 藤野可織著 講談社文庫 626円
- 『どつぼ超然』 町田康著 河出文庫 853円
- 『きみは赤ちゃん』 川上未映子著 文春文庫 691円
口伝えの説話が含んでいた毒が、現代の小説として蘇(よみがえ)ったような(1)。「おはなしして子ちゃん」と呼ばれるホルマリン漬けの猿、出来そこないの偽造人魚、一日に一度嘘(うそ)をつかないと死んでしまう少女など、生と死の際にある者が登場する。奇妙でねじれた存在であるがゆえの自負が、ふいに美しく輝く。
(2)は、海辺の温泉地田宮で「超然」を志した「余」の、精神的紆余(うよ)曲折が当地の風俗を織り込みながら語られる。自殺願望を抱くなど陰鬱(いんうつ)な気分を含みつつ衝動に任せたその行動は、妄想をからめた自在な文体によって、滑稽味を帯びるが、時として人々へのシニカルな批評として響く。哀(かな)しいような、愉快なような、えも言われぬ読後感が残る。
(3)は妊娠、出産、子育てに関するエッセー集。刻々と変化する心身が、作者ならではの独特の言い回し満載で情熱的に描かれ、圧倒される。一人の出産を巡る究極のリアルタイムメッセージとしての率直な問いは深く、母性神話をはじめとする固定概念が大きく揺らぐ。=朝日新聞2017年07月02日