- 『ニューヨークの妖精物語』 シャンナ・スウェンドソン著 今泉敦子訳 創元推理文庫 1188円
- 『ヒトラーの描いた薔薇』 ハーラン・エリスン著 伊藤典夫ら訳 ハヤカワ文庫SF 1080円
- 『フィリグリー街の時計師』 ナターシャ・プーリー著 中西和美訳 ハーパーBOOKS 1050円
先月は旅行が多く、合わせて2週間くらい海外にいた。幸い傑作揃(そろ)いの月で、旅先で読む本に不自由しなかったのは幸せ。
(1)はニューヨークを舞台にした、キュートな現代版妖精譚(ようせいたん)。妹をさらった妖精に立ち向かうソフィーが強くてたおやかで爽快。相棒の〈ちっとも動かないブルドッグ〉ボーレガードも大活躍。正直、この子の活躍で本書の推し度が30点くらい上がってる。
(2)SF界の怒れる巨人による、熱したナイフを突きつけられるような痛みとエネルギーに満ちた短編集。過剰なまでの言葉が描き出す暴力と死と生。その怒りの根底にあるのは、人間に対する愛と慈しみだからこそ心に刺さる。
(3)は精巧な歯車が導く、19世紀ロンドンのスチームパンクミステリ。日本留学中に書き上げたというこのデビュー作、随所に出てくる日本の描写が細やかで美しい。惜しむらくは翻訳があと一歩。でもマスコットのゼンマイ仕掛けのタコの可愛らしさで、そこは相殺かな。=朝日新聞2017年05月14日掲載
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