- 『風の名前1』 パトリック・ロスファス著 山形浩生ほか訳 ハヤカワ文庫 886円
- 『マイルズの旅路』 L・M・ビジョルド著 小木曽絢子訳 創元SF文庫 1404円
- 『天体嗜好症 一千一秒物語』 稲垣足穂著 河出文庫 1296円
今月は長い物語の終わりと始まり、そして時を超えて愛される物語を。
(1)は話題沸騰のファンタジー長編の第1巻。一気呵成(いっきかせい)に読み終えてはたと気づいたのだが、1巻の時点ではほぼ宿屋の亭主が生い立ちを語っているだけだ。なのにこれだけ読ませてしまう筆のうまさ!今後どれだけ面白くなることか。読み始めるなら、今!
(2)は現時点で16巻から生(な)るヴォルコシガン・サガのクライマックス。なので未読の方は第1巻『戦士志願』から読んで欲しい、と言う甚だ横紙破りな書評になってしまうが、このシリーズにはそれだけの価値がある。障害を持って生まれ、口八丁で宇宙を股にかけ飛び回るマイルズの冒険をぜひ。
(3)は全ての文、全ての言葉が美しいタルホ文学の精髄。揺るぎない美学に裏打ちされた、唯一無二の世界は月光から醸造した酒のように私たちを酔わせる。ただし相当強いので、一気読みせず、一日一編ずつ嘗(な)めるように読むことをお勧めします。=朝日新聞2017年04月09日掲載