イメージは大人版「暗黒女子」
秋吉さんが作家を目指すきっかけは小学6年のころ。フランツ・カフカの『変身』を読み、「頑張れば報われたり、悪い人は最後に罰せられたりするような小説しかないと思っていたので、そうではない文学というものに衝撃を受けた」。
その後、太宰治を読み、人間の汚い部分や、人生に救いのないところに焦点をあてて書かれているのを新鮮に感じた。中学2年のころには「私も小説家になる」と周りに宣言していた、と振り返る。
今ではイヤミスの書き手として知られる秋吉さんだが、かつては純文学ばかり読んでいたため、書くものも純文学だった。しかし、文学賞に応募しても「映画やドラマのようだ」と言われ、落選ばかり。最後までどんでん返しがなく、犯人がわからなくてもいい純文学の世界で、どのように物語に決着を付ければいいのかに悩む日々だった。
転機になったのは、2013年に書き上げた、女子校の文学サークルで開かれた闇鍋会が舞台のミステリー『暗黒女子』(双葉社)。担当の編集者に薦められて執筆を始めたが、それまでにはミステリーを書いたことがなく、有名作家の作品をひたすら読み、書き上げた。「やってみると、とても書きやすくて、私はこっちだったとやっと気付いた」
本の帯では「新しいイヤミス」と紹介してもらった。だが、当時は意味がわからず、編集者に尋ねてびっくりされたというエピソードを明かした。「普段からイヤミスをまったく意識せずに書いている」と述べ、会場を驚かせた。
『絶対正義』は、大人版の暗黒女子をイメージした作品。高校の同級生だった4人の女性にパーティーの招待状が届く。差出人は5年前に殺したはずの同級生、高規範子。間違ったことや法律を犯すことは絶対に許さない正義の塊のような人間で、4人の女性は範子に翻弄された過去を持っていた。
「ふと、100%正しい人間がいたらどうなるのだろう、と思って書き始めた」。死んだ人から招待状が届いたら怖い、という以前から書きたいと考えていたアイデアと組み合わせ、物語を構築していった。
「4人の人生の中で、範子のどこが許せなかったのかを具体的につくる過程が大変だった」と振り返り、1人の女性に対し、一冊の本が書けるほどの人生を描いた。しかし、書けば書くほど範子のモンスター性が浮き彫りになった。「本当に範子が気持ち悪いし、怖くて、この人に付き合っていると自分までおかしくなる」と思うようになるまで追い詰められた。
ただ、読者からは「私の周りにもこういう人がいる」との反応が多い。「少しくらいはいらっしゃるかなと思ったけど、想定外でした」と語った。
会場からは「絶対正義の反対が、忖度(そんたく)なんじゃないか」との質問も。秋吉さんは、かつて米国にいた際、隣の庭に葉っぱが2〜3枚飛んだだけでクレームが来たという体験を明かし、「日本もだんだん似てきていて、実生活では忖度している人が、インターネットという仮面をかぶるとモンスター化し、絶対正義になってしまう。真ん中がなくて、二極化しているような気がする」と話した。
(聞き手・野波健祐、文・渡義人)=朝日新聞2017年6月25日掲載