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付箋貼りたくなる小説めざして

柿村将彦さん 23歳 日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作家

  初めて書いた長編小説が昨年、日本ファンタジーノベル大賞2017に選ばれた。就活をせずに大学を卒業し、週2回の深夜アルバイトで食いつなぎながら執筆。短編をいくつか投稿したのち、「初めて長く書けた」と話す作品で恩田陸、萩尾望都、森見登美彦という名だたる選考委員をうならせた。「まぐれ当たりじゃなかったらいいなあ」と恐縮する。
 受賞作「隣のずこずこ」(新潮社)は田舎町が舞台のホラーファンタジー。ある日、ズコズコと足音を立てて歩く信楽焼の狸(たぬき)の置物が謎の美女と一緒にやってくる。ほのぼのと始まった物語は一転、彼女らが1カ月後に町を焼き払い、人々の記憶ごと消し去ってしまうことが明かされ、不穏な空気をまとう。圧倒的な厄災を前に、住民の大半は抵抗を諦め、終局を受け入れていく。時代への鋭い批評とも受け取れるが、無自覚だという。
 付箋(ふせん)を貼りながら本を読む癖がある。「どうしても貼りたくなるような文章が出てくると、それだけで好きな小説になる」。だから、自分の本もそうなればいいと願う。「誰かが付箋を貼っててくれたら、うれしい」  (山崎聡)