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「明治のワーグナー・ブーム」書評 つまり、屁理屈か激情である

評者: 佐倉統 / 朝⽇新聞掲載:2016年06月26日
明治のワーグナー・ブーム 近代日本の音楽移転 (中公叢書) 著者:竹中 亨 出版社:中央公論新社 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784120048418
発売⽇: 2016/04/25
サイズ: 20cm/395p

日本の洋楽受容の縮図である、明治の「ワーグナー・ブーム」。洋楽の流入経路、それに関わった役人や学者、音楽家、「お雇い」教師たちの意図と役割を詳細に辿り、日本近代化のもう一…

明治のワーグナー・ブーム―近代日本の音楽移転 [著]竹中亨

 クラシック音楽は好きだがワーグナーは苦手で、2番目に嫌いな作曲家だ。それが明治時代後半に大ブームになっていたという。その理由やいかに?が本書のテーマだが、ワーグナーの出番はごくわずか。むしろ、西洋音楽導入に格闘した明治期日本の群像劇になっていて、それがとてもスリリング。海外留学した日本人や日本で音楽を教えたお雇い外国人教師らの心性を、原資料から鮮やかな手さばきで再現していく。
 音楽はそれぞれの文化的規範に根深く組み込まれて身体化されているので、当時の日本人にとって西欧古典音楽は生理的忌避反応を呼び起こす存在だった。それを乗り越えるためには、思想に先導された言葉の論理や強固な使命感が不可欠だった。つまり、屁(へ)理屈か激情である。それにピタリとはまったのがワーグナーというわけだ。クラシック音楽に対するこの姿勢は今の日本にも通じているかもしれないという著者の見立てには、どきりとさせられる。