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かくも不器用な「彼ら」の生きざま 『一発屋芸人列伝』

文:加賀直樹、写真:斉藤順子

 弾け飛んだら、それっきり? んなアホな! 輝いた時代は終わろうとも、人生はどっこい続く。『一発屋芸人列伝』(新潮社)は、一世を風靡した後に失速した一発屋芸人たちの人生を、自らも一発屋を名乗る芸人が追跡取材した渾身ノンフィクションだ。著者は「ルネッサーンス!」でおなじみ、髭男爵の山田ルイ53世。どうしようもなく不器用な「彼ら」の息遣いを、緩急鮮やかに描き切った。その筆致からは、運命に翻弄されながら身をよじって泳ぎゆく者らへの情が、痛いほど伝わってくる。

――「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞。スゴくないですか?

 まず「ジャーナリズム」ってのにビックリ。そんなん思うて連載書いてないから。「40歳すぎて賞状もらえんねや」って嬉しかった。久々に「給水ポイント」が来た、みたいな。

 2008年に1回、(「ルネッサーンス!」で)ドカーンと売れさせていただいたけど、そこから10年、一発屋っていう「よろしくはない言われ方」をして走ってきたんで。42キロ走るうちの38キロ地点ぐらいまで給水所なしでマラソンしていたみたいな気持ち。(受賞は)久しぶりに水が飲めたって喜びがありましたね。

――そもそも「新潮45」で連載を始めたのは?

 朝日新聞デジタルさんでコラムを書いていたのを新潮社の編集者が見て、話を持ってきてくれた。「一発屋芸人に、一発屋芸人が取材し、インタビュー」という企画。最初は「うん??」。一発屋云々に限らず、「芸人が芸人に取材」って構図がちょっとどうなのかって。ましてやどっちも一発屋。なんか下手したら「傷のなめ合い」になったら嫌やなと。でも、最初の取材でレイザーラモンHGさんに会ってから、「あ、大丈夫。面白くなる」。距離感を気にしながらやれば、面白いものができる。そう実感しました。

――HGから始まって、この本に登場する一発屋は、コウメ太夫、ジョイマン、天津・木村、ハローケイスケ、キンタロー。ら11組。異論反論あろうが皆、放っていた光の強さを一度失った者たちだ。

 僕が尊敬しているか、凄いなと思う人。その両方という人しかお話を聞いていない。編集者と相談して決めて。編集者との間に若干の人選ズレはあったんですけど。僕が言うてる人……、ハローケイスケさんは僕が(取材したいと)言った人。すり合わせながら、という感じ。

――HGの回で、彼を「一発屋界の添え木」だと評したのに驚きました。一発屋の芸人たちを集めた会合、その名も「一発会」を主宰していることを初めて知った。マッチョで踊り狂うハードゲイの「フォー!」のイメージとだいぶ異なるような。

 HGさんはいつも気にかけていらっしゃるんです。「一発屋」と呼ばれる芸人って、毎年出てくるけれど、最初は理想と違う道を歩み始めてしまった現状に苛まれる。旬で売れた状況から、世間的に「わ、なんかもう売れていないな」「一発屋やな」みたいに扱われ始める。その時の本人の葛藤、落ち込み具合が凄いんです。現状と正面から向き合い、負けをゴクリと飲み込み、前に進むまでの過程、HGさん、すごく心配してて。「後輩のために面倒見てやらなあかん」って。ホンマに何か、NPO法人の代表みたいな。僕が相談した時も「もっと胸張ってルネッサンス言うていかなあかん」って。「それで世に出たのだから、伝統芸にしていくんや」。よう言われましたね。

――なるほど、たしかに「一発屋界の添え木」。そこから取材の旅が始まる。ちょっと気になったのは、「一発屋さんに話を聞きたいんですが」って取材交渉、男爵からのお誘いとはいえ、100%喜んで受け入れる芸人、少ないのでは?

 いやいや、それは大丈夫。ムーディ勝山君も言っていますけど、現代の一発屋というのは自分でちゃんと飲み込んでいる。そういう人だけにオファーしたんで。世間で、負けを認めることをさせてくれない時、なくないですか? みんなキラキラしていないとダメ、頑張っていないとダメ、勝っていないとダメ。僕がひきこもりの本を出版した時、「ひきこもり6年間があったから今の男爵があるんですね」みたいな言われ方をメディアでされた。

 僕はその6年間、完全なる無駄やったって、少なくとも自分では思う。で、無駄とか空白、どこが悪いって気持ちがすごくあった。一発屋の方々はきちんと何かに向き合っている。

――たとえば、東京から故郷の九州に活動拠点を移した波田陽区さんの回。ご本人のダメな部分が男爵の目を通して愛情たっぷりに表現されている。批判は批判として書きながら。

 しばらくぶりに福岡でお会いしたら、目が違っていましたね。覚悟を決めたというか、家族を養っていかないと、という。彼の売れ方は当時尋常じゃなかった。何年も経っているとはいえ、あれだけ稼いだ人が、ああいう「働きかた改革」ってなかなか、難しい。悪う言う人もおるやろな、というのも全部飲み込んで、福岡で仕事するって決めた人の目をしていた。僕、立派やなと思いますね。その立派さは、彼のネタが面白くないのとはまた別なんです。

――そして、とにかく明るい安村さんは、不倫問題で文春砲にやられてしまった。

 文春砲に関しては、僕の事務所、芸能界でも一番被害を受けてますから。その威力の恐ろしさ、十分知っていますから。もちろん彼が悪い。ただ、あんな芸能界的にまだ稚魚の部類の彼の話、誰が聞きたいねんって僕は思った。彼の奥様が凄い。もう、ネタにしてますもんね。

――支える家族のぬくもりが、男爵の筆致からも滲み出ている。一発屋芸人といっても色々……。

 それぞれの「一発」がありますから。テツandトモさんはまた独特。彼らの凄い点は、尋常じゃない本数の地方営業で稼ぐ。そのクオリティの高さたるや。地方営業の「格」を上げました。老若男女、自治体・企業、みんなが呼びたい安定感、信頼感。凄い先輩です。そして最後の項がなぜか髭男爵。これは反対したんですけどね。自分で自分を書くのってめっちゃ寒いわって。編集者に押し切られて渋々。相方(ひぐち君)の悪口で逃れた。はっはっは。

――「列伝」第2弾の構想は? それから、文壇の世界に羽ばたいたり?

 うーん。リアルに本の売れ行き次第。でも、自分らしか知り得ない世界みたいなもの、やっぱりある。書きたいなと思うことは色々あります。地方のイベンターさんの話とか。

 この本は、いわゆる「あの人は今」みたいなこととちょっと違う。今回出ていただいた「彼ら」は現役で、負けながら仕事している。下がっていくさまを見せている。「負けを飲み込んだ人の強さ」。ちょっと新しいことをしているなと僕は思う。サクセスストーリーではないけれど。

――「彼ら」は、人生に溺れながら笑っている。泳いでいる。

 メディアは「みんなキラキラしようぜ、頑張ろうぜ」って言うけれど、僕はこういう生々しいほうが好きやなと思います。