カズオ・イシグロ著『日の名残り ノーベル賞記念版』(土屋政雄訳、早川書房・2916円)が刊行された。黒地に金を使った表紙は格調を感じさせる。第2次世界大戦の前後に英国貴族に仕えた執事の物語という内容を反映しているようだ。
注目は村上春樹さんによる解説。イシグロさんと会って話した時、「『英国人作家』である彼の中の日本人性(みたいなファクター)」を感じた、と記す。本作の英国人執事には「日本古来の武士」との共通項さえ感じた、とも。また、作家を、作品をひとつひとつ系統的に積み重ね「垂直的」に進歩するタイプと、異なったテーマや枠組みを取り上げ「水平的」に試しながら進歩するタイプに分け、自分は前者でイシグロさんは後者だと分析するなど、作家論も展開していて興味深い。
互いにファンという2人は、レイモンド・チャンドラー好きでも共通。日本語訳を出した村上さんに、英語なので訳せないとイシグロさんは悔しがったらしい。これは、村上さんから聞いた話。(吉村千彰)=朝日新聞2018年5月26日掲載
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