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「ハレのヒ タヌキの良いふるまい」 江戸の食べ物のうんちく、まったりと

ハレのヒ タヌキの良いふるまい(1) [著]フジモト

 ひとことで言うと、高校生の女の子と1匹のタヌキが、ただ会話をしているだけのマンガだ。話題は毎回「食べ物」で、一応料理うんちくマンガに分類されるのだろう。しかもテーマは江戸時代の料理や食材に限定しているので、かなり地味な内容。毎回それらをめぐるエピソードの中で、2人のまったりとした空気の日常が描かれる。
 となると物静かなマンガを想像するが、実際の画面はとてもにぎやかで楽しい。2人ともひねくれ者で、感情表現も個性的なので、含みの多い会話がぽんぽんと弾(はじ)け飛ぶ。ギャグまじりの飛躍気味のコマのテンポもあって、人によってはちょっと面食らう内容かもしれない。マンガの表現にニュアンスのおもしろさを求める人にとっては、とても味わいがいのある作品だ。
 中でも間合いのとり方は印象的だ。2人が同居する背後にシリアスなテーマが見え隠れしながらも、毎回ギャグでくるんで流していく著者の間合い。わだかまりがありながら、お互いに絶妙な距離をとって暮らす2人の間合い。それらが大胆なコマのリズムの間合いで展開され、読みごたえがある。久々にマンガ表現の自由さを堪能した気持ちがした1冊だ。=朝日新聞2018年6月9日掲載