「トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?」書評 不条理な現実 笑いで解毒を
ISBN: 9784862762573
発売⽇: 2018/05/09
サイズ: 19cm/405p
「トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?」 [著] トレバー・ノア
アメリカの深夜テレビはコメディー番組で満載だ。政治的に無害なものも、毒のあるものもある。話題は偏るし、公平中立ではありえない。でも現実が不条理なほど、笑いで解毒したいと思うのは自然なこと。
トレバー・ノアはこの深夜番組で人気のコメディアンだ。南アフリカ共和国出身、黒人の母と白人の父を持つ。人種の話題を笑いに変える彼の才能はピカイチだ。白人たちの休暇は奇妙だと思わない? バンジージャンプでスリルを味わい、キャンプ生活で不自由を楽しむなんて。僕たち黒人の日常は危険だらけ、水や食料のない生活なんて何も珍しくない。スリルはそれだけで十分だ。
実際、ノアの少年時代は壮絶だ。アパルトヘイト下に生まれた黒人と白人の子は存在自体が犯罪だ。白人、黒人、カラードのどれにも属さない。幾つもの言葉を喋り、カメレオンに徹するノアを取りまくのは、貧困と暴力、一般人と犯罪者とが紙一重の世界だ。
心の痛む話も少なくない。仲良しの黒人少年テディとの酒入りチョコレート万引き事件はその一つだ。ある日、テディは警備員に捕まってしまう。逃げおおせたノアは校長室に呼び出され、テディと一緒にいた白人少年は誰かと尋ねられる。監視カメラは、テディの黒い肌との対比でノアの褐色の肌を白く映していて、先生は犯人が白人だと思い込んだのだ。ノアは放免、テディは退学させられてしまう。
この本の主役は母親だ。信心深いかあさんは、ノアの悪行をすべてお見通しだが、息子の可能性を疑わない。法を犯してノアを産み、暴力的な夫と縁を切れずに殺されかけるかあさん。それでも冗談を忘れない母と子は一心同体だ。
ふと考えてしまう。この過酷な人生から生まれる冗談を笑っていいものか? 人種ネタのジョークに笑う私は何者? でも、この不条理な世界、笑って一日を終わらせたい……。
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Trevor Noah 1984年生まれ。コメディアン。2015年、米国を代表する風刺番組「ザ・デイリー・ショー」の司会に