『柔のミケランジェロ』 [著]カクイシシュンスケ
一見ひ弱な主人公が、秘めた才能を猛練習で開花させる――というのはスポ根ものの定番だ。本作も設定的にはそのパターン。しかし、従来とは大きく異なる点がある。
主人公はアクション映画とフィギュア作りが好きな高1男子。運動経験ゼロだが、ひょんなことから柔道部のエースに才能を見出(みいだ)される。その才能とは人間の重心の位置を一目で見抜く力。それはまさに柔道の基本である“崩し”につながる。大きい相手を宙に浮かせた快感に魅せられた彼は、柔の道を歩みだす。
この才能のあり方がまず斬新だ。それが美術講師の父に彫刻を教え込まれたおかげというのもユニーク。動きを見る目も鋭い彼は、技の動作と理屈もすぐ覚える。ただ、それを実践する体力がない。
そこで汗と涙の猛特訓……とならないのがまた斬新。顧問の先生の方針で絶対に無理はさせないのだ。初心者には基礎からゆっくり教え、「何かやりたい技ある?」と要望まで聞く。もちろん先輩によるシゴキも禁止。スポーツ界のパワハラ問題に一石を投じるようなセリフもある。
初連載作で絵はまだ生硬ながら、着想やキャラクター造形は秀逸。激戦区で戦えるだけの武器を持っている。=朝日新聞2018年6月16日掲載