「俗都市化 ありふれた景観」書評 再編されゆく都市へのまなざし
ISBN: 9784812213407
発売⽇:
サイズ: 22cm/258,37p
俗都市化 ありふれた景観 グローバルな場所 [著]フランセスク・ムニョス・ラミレス
近年都市論は、グローバル化や消費社会化の影響により均質化・平板化した都市のあり方を批判的に検証したものが多い。気鋭の都市地理学者である筆者はこの流れを汲(く)んではいるが、さらに踏み込んで都市景観や人々の時間の使い方の平俗化まで省察している。異なる特性をもつ4都市、ロンドン、ベルリン、ブエノスアイレス、バルセロナそれぞれのあり方を具体的に検証した点も参考になる。
ユニークなタイトル「俗都市化(Urbanalizacion)」は、スペイン語の「都市化(urbanizacion)」と「平俗な(banal)」を合成した造語である。この訳語を考案した訳者の技量に感嘆した。今日平俗化された大衆文化・消費は、「美味(活発・愉快)」と「光沢(柔和・清潔)」の二つの座標系をもつという。たとえばシュガーレスガムや低ニコチンタバコのように、「美味」だが「光沢」をもつ、つまり愉快だが清潔で危険のない平板な商品の普及は、そのまま都市景観の平俗化の定義に援用できるという。さらに今日の世界では、巨大都市の住人ではなくとも、都市的な景観や機能をもとに築かれた社会環境を脱することは困難だ。都市はシンボルであり、生活の基盤であり、それらの生成する過程そのものである。
筆者は最も成功した都市モデルとされるバルセロナの研究者であり、バルセロナモデルを真摯(しんし)に再考している点も興味深い。1992年のバルセロナ・オリンピックを機に、固有のブランドイメージを打ち出すため、バルセロナの過去の要素が、いかにして理想化・神話化されていったのか。なるほど歴史も風土性も、みな現在の景観に収斂(しゅうれん)する。
ふと6年後の東京五輪を思う。私たちは、この後どのような東京の景観と出逢(であ)うのだろうか。再編されゆく都市イメージのただ中で目をこらす筆者のまなざしは、今後私たちにこそ必要なものだろう。
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竹中克行・笹野益生訳、昭和堂・4200円/Francesc Munoz Ramirez バルセロナ自治大学で地理学を教える。