「路地裏が文化を生む!」書評 都市の可能性を発見できる場
評者: 田中優子
/ 朝⽇新聞掲載:2013年01月20日
路地裏が文化を生む! 細街路とその界隈の変容 (青弓社ライブラリー)
著者:増淵 敏之
出版社:青弓社
ジャンル:社会・時事・政治・行政
ISBN: 9784787233462
発売⽇:
サイズ: 19cm/234p
路地裏が文化を生む! [著]増淵敏之
「拡大するだけが都市の美徳ではない」。そのとおりである。本書はその思想を背景に、拡大しない「路地裏(バックストリート)」から都市を見た。新宿、渋谷、六本木、原宿、下北沢、秋葉原、吉祥寺、道頓堀、ミナミ、京都、札幌、広島、福岡が、路地と音楽と文学とタウン誌と劇場とカフェから見えてくる。現状ばかりでなく、その変化の歴史も綴(つづ)られる。つまり、路地裏を文化の場として捉(とら)えたとき、そこには金太郎飴(あめ)化している都市への絶望ではなく、新しい可能性が発見できるのだ。
都市、文学、音楽、メディアは別々に論じられているが、しかし「場」から考えるとそれらはともに存在し、相互に関わり合いながら生み出されてきた。そこに私たちは「居場所」をみつけ、消費者であるとともに創造者となり、都市の文化を作ってきたのではないか。インターネットが仮想の場を構築しつつある今、本書は個々の場所の歴史を確認しつつ、そのことを思い出させてくれる。
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青弓社ライブラリー・1680円