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記者と警察、せめぎ合う迫力

64 上 (文春文庫 D県警シリーズ) 著者:横山 秀夫 出版社:文藝春秋 ジャンル:一般

価格:691円
ISBN: 9784167902926
発売⽇: 2015/02/06
サイズ: 16cm/355p

元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官・三上義信。記者クラブと匿名問題で揉める中、“昭和64年”に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。…

評者:逢坂剛 / 朝⽇新聞掲載:2012年11月18日

■64 [著]横山秀夫

 著者7年ぶりの長編は、期待を裏切らぬ渾身(こんしん)の力作だ。
 D県警警務部の広報官、三上義信警視は元捜査二課に所属する、辣腕(らつわん)の刑事だった。それが、人事抗争の余波で刑事畑をはずされ、広報官に回されたことで、内心鬱々(うつうつ)たるものがある。しかも一人娘、あゆみが家出して行方不明、という悩みを抱えている。
 こうした状況のもとで、三上はしたたかな記者クラブを相手に、交通事故を起こした妊婦の匿名問題や、警察庁長官の緊急視察問題を巡り、体を張って対峙(たいじ)する。長官視察には、14年前に発生した未解決事件、〈ロクヨン〉と符丁で呼ばれる少女誘拐事件が、関わっている。どうやら、本庁は地元警察官の花形ともいうべき、県警刑事部長のポストに、キャリアを送り込む算段らしい……。
 著者はデビュー以来、犯罪捜査を主体とする従来の警察小説に、斬新な視点を持ち込んできた。本書もまた、記者クラブと警察広報のせめぎ合いを、臨場感あふれる迫力で描き出し、あますところがない。加えて、キャリアと地元警察官の対立、刑事部と警務部のすさまじい軋轢(あつれき)など、さまざまなコンフリクトが同時進行で、絡み合う。
 物語は、終始三上の視点で進められ、読者は三上の内省と独白によって、小説世界を引きずり回される。ハードボイルドの観点からは、主人公の心理を書き込みすぎるきらいが、ないでもない。しかし、一人称を避けて三人称を採用したところに、あえて客観の世界に踏みとどまろうとする、著者の姿勢が明示されている。
 終盤の、新たな誘拐事件の追跡劇は、圧倒的なスピード感をもって展開され、息を継ぐいとまもない。やや強引な結末も、その熱気の余韻によって、十分なカタルシスとなる。著者雌伏の7年は、ワイン樽(たる)の底の澱(おり)までさらうような、烈々たる本書の仕事によって、十分に報われた。
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 文芸春秋・1995円/よこやま・ひでお 57年生まれ。作家。著書に『半落ち』『クライマーズ・ハイ』など。