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骨太の主張、謙虚な語り口で

時の余白に 著者:芥川 喜好 出版社:みすず書房 ジャンル:芸術・アート

価格:2700円
ISBN: 9784622076827
発売⽇:
サイズ: 20cm/279p

創作の内実に迫る美術記事を長年にわたって書いてきた練達の記者が、「周縁」から美を見つめ続けた定点観測。新聞連載コラム。2006年春の連載開始から東日本大震災後の2011年…

評者:鷲田清一 / 朝⽇新聞掲載:2012年07月01日

時の余白に [著]芥川喜好

 美術へのまなざしにはもっと広がりがあってよいとおもう。「芸術的価値」の高い作品を前にしてかしこまるのも結構だ。地域や施設でのワークショップという、生活意識の傍らにアートを溶かし込むというのも大きな意味があろう。けれども美術が、社会の趨勢(すうせい)にひっかかりを感じて、どうしても譲れないところがあるという、距(へだ)たりの感覚を失ったら、それはもう財宝か商品でしかなくなる。
 この本には、読売新聞で月1回連載されてきた長めの美術コラムが収められている。いずれも日々のくらしのなかでふと感じた違和から書き起こし、そういえばこんな展覧会があった……というふうに、人びとのまなざしを、時代からしずかに身を退(ひ)く美術家、独立独歩を貫く作家の仕事のほうへ案内する、そんな構成になっている。
 定年を前にして仲間が用意してくれた、この、紙面の番外地とでもいうべき場所で、のほほんとした語り口で、じつに骨太の主張をしている。いまの新聞がややもすれば見失いがちな「冷静」と「歯止め」を、この一身でつないでおこうという使命感が、です・ます調の謙虚な語り口に滲(にじ)みでている。「漫然と全体に向き合うこと」が許されない現下の社会では、「『ついていく』だの『取り残される』だのは、さっさと卒業することです」。「どうぞ深呼吸を」というふうに。
 著者が抑えた声で口にする違和感の断片を星座のようにつないでゆくと、熊谷守一や池田龍雄、早川俊二、谷川晃一らちょっと地味な作家にこと寄せた、著者の矜持(きょうじ)が浮かび上がってくる。身の丈、落ち着き、思慮深さ、待つこと、削(そ)ぎ落とすことといった、人の〈品位〉とでも言うべきものだ。この退きのなかにこそ「感覚をとぎすます道場」があると言わんばかりに。
 読みすすむうち、不思議なことに、こちらの息もすこしずつ整っていった。
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みすず書房・2625円/あくたがわ・きよし 読売新聞編集委員。著書に『「名画再読」美術館』ほか。