児玉清「すべては今日から」書評 作家の人生を窺う優しい筆調
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2012年07月01日
すべては今日から (新潮文庫)
著者:児玉 清
出版社:新潮社
ジャンル:一般
ISBN: 9784101306520
発売⽇: 2015/01/28
サイズ: 16cm/318p
すべては今日から [著]児玉清
本好きの人が書いたらこのような本になる、とのサンプルのような書だ。幼年期に講談本の面白さに目ざめてから、読むわ読むわ、歴史小説、ミステリー小説、純文学まで幅広い。この書には本好きでなければわからないキーワードが幾つかある。
結婚後、初めて本格的な本棚をつくるが、「かなりのスペースが残された本棚には、限りない未来が約束されている」とか、感動する本に出会っての「著者の思いに強く感情移入しながら、読者自身の体験をより深めることができる」、本屋を覗(のぞ)く楽しみ、原書を読みこなす喜び、思わずわかる、わかるとうなずく。それにしても、作品を通じて作家の人生を窺(うかが)う著者の筆調が優しくて心が和む。
大学卒業式と母の死が重なり運命が変わる。なるほど著者が本を手にするのも人生を常に確認していたのか。目次や構成がまた本好きの呼吸を感じさせ、著者、読者、編集者が良きトリオであるのが良書と実感させられる。
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新潮社・1470円