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かこさとしの世界 生きる、知る喜びを描き続けた 蜂飼耳

かこさとしさん。2018年に亡くなるまでに600点超の作品を残した=08年、神奈川県藤沢市

 かこさとしについて振り返りたい。絵本作家、児童文化研究者として多方面で活躍した。1926(大正15)年3月、福井県・武生(現・越前市)生まれで、今年は生誕100年の節目を迎える。

 絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)『からすのパンやさん』(偕成社)などは楽しさ、あたたかさがあり、時代が移り変わる中、愛読されてきた。一方で、科学絵本のめざましい仕事も見逃せない。『かわ』『海』『宇宙』などだ。

多様性への視点

 ここでは『地球 その中をさぐろう』(福音館書店・1650円)を取り上げよう。「あなたは じめんに はえている ちいさなくさを ひっぱって ぬいたことが ありますか」。あるある、ある。身近なことから語り起こされ、いつのまにか未知の知識に繫(つな)がる。情報と想像が柔軟に共鳴する。ページをめくっていくと、草木の根、根菜などの様子、土の中に作られた生き物の巣、さらには水道管やガス管や地下鉄などの人工物にも視線が届くようにできている。最後にはマグマ、マントル、太陽系など、天体や宇宙へ視点がひろがる。

 改めて見ると、たとえば、ねぎ、ごぼう、みみず、水をくむポンプが一つの見開きに描かれている。また別のページでは、電気地下ケーブル、げじげじが同一画面に存在する。それらの取り合わせは不思議な感じをもたらす場合もある。しかし、考えてみると、どうだろう。たとえ視界に映らなくとも、身の回りの現実は、そうなっているはずなのだ。これこそ多様性に通じる視点ではないか。かこの絵本は、物事の細部を科学的に知る面白さだけでなく、総合的な観点の可能性をもたらす。かこの絵本の魅力の一つはそこにある。

子どものために

 10代の終わりに終戦を経験したかこは、今後の人生は子どもたちのために働きたいと強く考えるようになった。企業に勤めながら、セツルメント活動(市民ボランティア、福祉活動)に参加する。その子ども会で、紙芝居や幻灯を制作して上演した。この時期の交流がどれほど大切なものとなったかについても繰り返し記している。

 かこさとし・鈴木万里(かこの長女)『かこさとしと紙芝居 創作の原点』(童心社・3300円)は、かこの紙芝居作品と紙芝居についての考え方を凝縮した一冊だ。「演ずる人」がいることが大事だと書く。「ギクッとしたら、となりの子もギクッとしていたという共感」や「この雰囲気があるということが自分で体得できる」こと。紙芝居によってこうした体験を得られると述べている。紙芝居を元に作られた絵本もある。また、紙芝居の歴史を簡潔にまとめたページも興味深い。絵本とも動画とも異なる媒体として、その奥深さをいまもなお捉え直すことができる。

 かこは『未来のだるまちゃんへ』(文春文庫・726円)で自身の来歴や仕事、考え方などを大いに語っている。「イトトンボが好きな子」がいたらそれは「世界の成り立ちを知るための大切な鍵になるはずです」と述べる。「だとしたら、バラバラの知識としてではなく、イトトンボとこの世界との有機的なつながりを説き明かして、示してあげることはできないだろうか」。科学絵本の発想の根底には、こうした考え方があるのだ。

 「昔の子どもと今の子どもでは、だいぶ違うと言えば、違うんですけど、それは時代という生きる場の違いであって、本質的なものはそんなには違わないという気がします」。科学の専門性を活(い)かし、広い視野に立ち、多様で魅力的な仕事を展開したかこさとしは、生きる喜び、知る喜びを描き続けた。類のない仕事だ。どの作品にも、生きることを励ます視点がある。=朝日新聞2026年1月17日掲載